ロシアとウクライナはAI(人工知能)を活用したドローン(無人機)の配備を急ピッチで進めており、両国によるドローン戦は「AI軍拡競争」の様相を呈している。AI搭載ドローンは人間を介さず自律的に目標を探知・攻撃できるほか、ジャミング(電波妨害)耐性もあるため防御用ジャマーが事実上無効化される。
この軍拡競争を駆動するかたちになっているのが、米半導体大手エヌビディアのハードウェアだ。ロシアは制裁によってエヌビディア製品を入手できないはずだが、ロシアの複数の新型ドローンで同社の半導体が中核部品として使用されていることが確認されている。
エヌビディアの組み込み用ボード「Jetson」
エヌビディアは時価総額で世界最大の企業であり、その額が史上初めて4兆ドル(約590兆円)の大台を超えた企業でもある。AI向け半導体市場で85%のシェアを握ると推定されるなど圧倒的な成功を収めており、それはとりもなおさず、いままさに引く手あまたなもの、つまり「AIを動かす高性能な半導体」を手がけているからだ。
コンピューター用の典型的な半導体であるCPU(中央演算処理装置)が少数のタスクに、より多くの処理能力を割り当てるのに対して、GPU(画像処理半導体)、もともとはアクセラレーターとして知られるAI向け半導体は多数の細かなタスクを同時に処理できる。AIは巨大なデータセットを扱うだけに、こうした並列処理はほとんどの種類のAIにとって不可欠なものだ。
エヌビディアの成功は、1980~90年代の「半導体戦争」を思い起こさせる。当時は、デスクトップパソコンが大量のスプレッドシート計算をのろのろと処理していた。そこではCPUの性能がきわめて重要であり、米インテルが「386」、「486」、「ペンティアム」といった製品でクロック周波数やトランジスタ数をどんどん高めていき、市場を支配するに至った。2020年代にGPUでそれをやっているのがエヌビディアであり、より高性能な製品を次々に投入して競争をリードしている。
エヌビディアの半導体製品は用途別にいくつかのファミリーがあり、データセンター向けのハイパワー(高性能で消費電力も大きい)なものから、家電製品やドローンといったエッジデバイス(端末)向けのコンパクトで省電力の「Jetson(ジェットソン)」まで幅広く展開している。後者のようなシングルボードコンピューターは数百ドルで入手できる。



