バイオ

2025.08.18 07:15

植物の成長スイッチが発見される。太い木材の効率的な生産などに期待

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植物は、まず根と茎を縦に延ばして、次に茎を太くして安定化させる。植物が太くなる成長は枯れるまで続くのだが、何がきっかけで太さ方向の成長が始まるのかは、よくわかっていなかった。大阪大学をはじめとする研究チームは、その「スイッチ」を発見した。

大阪大学大学院理学研究科の近藤侑貴教授らによる研究チームは、東京大学、神戸大学、名古屋大学、理化学研究所、帝京大学、秋田県立大学との共同研究により、植物が根を太くし始めるきっかけとして、植物の成長ホルモン「サイトカイニン」の働きが一時的に強くなり「幹細胞が覚醒」し、肥大化が始まることを突き止めた。

植物の茎や根は、外皮の内側に水を運ぶ管を構成する「木部」と、養分を運ぶ「篩部」(師部)という組織がある。樹木なら木材になる部分だ。ここが太くなることで植物は大きくしっかりと育つ。これらの組織は、木部と篩部の間にある形成層の幹細胞が分裂して成長する。

だがこれまで、いつどのようにして形成層幹細胞が働きだすのかは不明だった。なぜなら、それは植物の茎や幹の奥深くにあるため、見ることはおろか、何らかの方法で観察することも難しかったからだ。

そこで研究グループは、2016年に開発したVISUAL法という実験システムを使って、そのメカニズムを観測することに成功した。VISUALとは、一度分化した植物の細胞を幹細胞に戻し、改めて形成層幹細胞として分化をさせることで、その様子を観察できるようにした実験手法のことだ。

実験はシロイヌナズナを使って行われた。VISUALでは肥大化成長が始まる直前に、サイトカイニンの応答(作用)が一時的に高まることがわかった。実際のシロイヌナズナの根で発光物質を使った成長の可視化を行ったところ、やはり肥大成長の前にサイトカイニン応答が上昇していた。さらに、人工的にサイトカイニン応答を高めたところ、それがピークに達したわずかな時間に形成層幹細胞の活動、つまり木部細胞と篩部細胞の成長が始まることが認められた。これが肥大開始のスイッチということだ。

樹木なら、木部が太くなれば太い材木が得られる。有用な化学成分を蓄える根や葉や果実も大きくできる。「木材生産の効率化や有用物質を蓄える植物の開発、さらにはCO₂吸収量の多い植物の育種など、さまざまな応用が期待されます」と研究グループは話している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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