太陽系探査の競争が激化する中、NASAは宇宙開発における新たなフロンティアに踏み出そうとしている。これは宇宙そのものだけでなく、そこに到達するための“動力源”に関してもだ。同機関が発表したのは、長年使われてきた「プルトニウム238」に代わる新たな核燃料「アメリシウム241」。より安価で寿命が長く、過酷な宇宙空間に耐え得る新型燃料として、今後のロボット探査や有人ミッションに革命をもたらす可能性が期待されている。
今年、オハイオ州のクリーブランドにあるNASAのグレン研究センターは、英国レスター大学と連携し、アメリシウム241の熱出力を模擬したシステムを使ってスターリング発電機の実証試験を実施した。この試験では実際の放射性物質は扱わず、科学者の被曝を避けた上で、現実に即した性能評価が可能となっている。
従来の熱機関とは異なり、このスターリング変換器にはクランクシャフトや回転軸でなく、浮遊型ピストンを使用している。そのため、機械的な摩耗は最小限に留まり、数十年単位の連続運転が可能だ。さらに、ひとつのユニットが故障しても他が稼働し続ける設計となっており、地球から遠く離れた深宇宙ミッションには不可欠な仕様だ。
NASAグレン研究センターの機械技術者サルヴァトーレ・オリティは、構想から実機までの開発スピードに関して、「国際的な専門家との強力な協力関係が進捗を加速させた」と述べている。
初期の試験結果は極めて良好で、現在はより軽量かつ高効率な次世代プロトタイプの開発が進行中だ。振動・極端な温度差・真空など、宇宙環境に必要な各種ストレス耐性の試験も視野に入れている。
アメリシウム241が注目される最大の理由は、432年という極めて長い半減期にある。これにより、長期間にわたる深宇宙ミッションでも安定した電力供給が可能。加えて、プルトニウム238よりも調達が容易でコストも低いという実用面での強みがある。太陽光が届かない月面の永久影や、木星・土星の氷衛星などでは、このような原子力電源が不可欠となる。
過去、ESA(欧州宇宙機関)が進めてきたアメリシウムの宇宙応用研究にNASAが新たな推進力を与えたことで、構想は現実味を帯びてきた。将来的には、メンテナンスなしで数十年稼働し続ける発電機として、探査機・月面基地・観測装置の中核を担う可能性がある。
(本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」8月1日の記事からの翻訳転載である)



