さまざまな疾患の治療に応用できる、mRNA医薬の可能性
mRNAはがんから心臓病まで、さまざまな疾患の治療に応用できる可能性がある。
新型コロナワクチンは、ウイルスの抗原を作らせるため、単純に患者の腕に注射される。これとは異なり、Strand TherapeuticsのmRNA治療薬は、腫瘍自体に信号を発するよう指示することで、体の免疫系から認識可能な状態にする。これは、いわば腫瘍を「光らせ」て、免疫系が反撃できるようにするための仕組みだ。
「今回の臨床結果には本当に驚かされた」と、今回の投資でStrand Therapeuticsの取締役会に加わることになったKinnevikの投資マネジャー、アラ・アレナジは語った。「これまで教科書にしか載っていなかったような構想を、彼らは実証してみせたのだ」。
MITの研究室から生まれたスタートアップ
現在34歳のベクラフトは、自身を「やむなく経営者になった、バイオテクノロジー研究者」と呼んでいる。2017年に彼は、Strand TherapeuticsをMITからスピンアウトさせた。共同創業者には、同社でプレジデント兼研究開発責任者を務める北田輔博士がいる。北田博士は、MIT在籍中に世界で初めて合成mRNA遺伝子回路を作製した科学者として知られている。また、ベクラフトの博士課程の指導教員で、生物工学の教授として細胞工学と回路構築を専門とするロン・ワイスも共同創業者の1人であり、現在も同社アドバイザーを務めている。
Strand Therapeuticsは2019年、Playgroundが主導したラウンドでシード資金を調達したが、当時の評価額はPitchBookによるとわずか1550万ドル(約22億8000万円)だった。「私が初めて会ったとき、彼らは素晴らしいアイデアを持った若い博士課程の学生たちだった」と、Playground Globalのゼネラルパートナーのジョリー・ベルは述べている。
最大の課題「送達技術」の革新
ベクラフトは、新薬や個別化医療における最大の課題は「送達(デリバリー)技術」にあると長年考えてきた。現在多くの治療は、タンパク質を標的の細胞に力ずくで送り込むような方法で投与されており、そのため患者は長期入院を強いられ、保険会社にも高額な負担がかかっているという。「私たちが目指しているのは、治療効果をもたらすタンパク質を、がん細胞・免疫細胞・骨髄といった標的に正確に届けることだ」と彼は語る。そうした標的化により、必要な場所では強く効き、不要な場所では毒性を示さない治療が可能になる。
「この1年から1年半の間に、mRNAと遺伝子医薬の時代がついに到来したことがはっきりしてきた」と彼は語った。「私たちはそれが、未来の医薬品開発につながると考えている」。


