筆者が高校生だった頃、学術論文を書くという行為は、家を出て図書館まで行き、引用文献を探すという骨の折れる作業を意味した。かつては、論文の主張を裏付ける文献を探すために週末の丸一日を費やして、本をめくっていたのだった。そして、その論文に添える引用リストを作るのもまったく楽しいものではなかった。
しかし、大学に入る頃には、ウェブのおかげで検索作業が大幅にスピードアップした。オンラインのデータベースという奇跡のような発明は、調査にかける時間を大幅に短縮してくれた。その数年後に筆者が石油業界を取材するジャーナリストになった頃には、グーグル検索によって複数の情報源に簡単にアクセス可能になり、面倒な作業といえば検索結果の1ページ目以降にある役に立たないリンクを除外することのみになっていた。
そして2025年になった今、学生や社会人がもはや検索をしなくなったと報じられている。Business Insight Journalは、5月の記事で「学生たちは、検索方法が異なるだけでなく、別の『場所』で検索している」と伝えた。調査会社Everspringの「2025年検索トレンドレポート」によると、大学の入学志願者たちは従来の検索エンジンではなく、ChatGPTのような人工知能(AI)ツールに頼る傾向をますます強めている。
社会人もまた、検索に頼るよりも、AIを使って直接答えにたどり着くことが増えている。「私はもうグーグルを使わない。ChatGPTだけを使っている」と、IBMのテクニカルコンテンツマネージャーであるアッシュ・ミンハスは、同社の『ブラウジングは時代遅れに:AI検索時代の検証』と題した記事で述べている。その中で彼は、AIが「短時間で膨大な情報源をスキャンして、要約を提示してくれることの利便性」を熱く語っている。
私たちが知っているグーグルの終焉?
短期間で起こったこのような驚くべき変化は、「1つのドアが閉まれば、また別のドアが開く」ということわざを思い起こさせる(編注:日本のことわざでは「捨てる神あれば拾う神あり」に近い)。
グーグルでの検索は、私たちの日常の一部となり、「ググる」という言葉がおなじみになっていた。しかし、数年後にはこの「ググる」という言葉は、私たちがインターネットの黎明期によく聞いたモデムの接続音と同じくらい古びたものになるかもしれない。そうなれば、従来型の検索が滅ぶだけでなく、SEO(検索エンジン最適化)の業界全体が崩壊する可能性もある。
そして、SEOに代わる存在として浮上しているのが、ChatGPTをはじめ生成AI・大規模言語モデル(LLM)に「最適に解釈され、信頼され、引用される」ようにコンテンツを設計・最適化する手法としての「LMO(Language Model Optimization。言語モデル最適化)」だ。近年のSEO業界やマーケティングの文脈では「LLMO(Large Language Model Optimization。大規模言語モデル最適化)」という表現も用いられている。
LMOについては、AIが学習・参照しうるあらゆるテキスト資産を対象とする広義の概念で、LLMOは、大規模言語モデル(LLMs)が回答を作るときに自社コンテンツが引用・表示されるようにする手法といったイメージだ。両者はほぼ同義だが、文脈で使い分けられている。
なお、「GEO(Generative Engine Optimization。生成エンジン最適化)」については、生成AIが「検索エンジンに代わる答えの窓口」になったときに、そこに表示・引用されることを目指す最適化の概念といえる。LLMOは、このGEOを構成する概念と位置付けられることもある。
従来の「検索エンジン最適化」は、SEO.comによると、グーグルやBingなど検索エンジンにおけるオーガニックの検索結果で、ウェブサイトをより上位に表示させるためのプロセスとされている。SEOには、検索クエリの調査や有益なコンテンツの作成、検索順位を改善するためのユーザー体験の最適化が含まれる。
LMO・LLMO・GEOの台頭
「私たちは今、グーグルのアルゴリズムを攻略する時代から、リアルタイムでユーザーの質問に直接応答するAI検索の時代へと移行している。これこそが、今まさに進行中の根本的な変化だ」と、筆者の取材に応じたクロード・ズダノウは語った。LMOの最新動向を注視する彼は、AIを活用して中堅企業の成長を加速させる次世代のマーケティング・クリエイティブサービス代理店ネットワークのOnar Holding CorporationのCEOを務めている。
ズダノウが注目しているのは、顧客にもたらされる前例のない価値だ。従来のSEOは多くの場合、キーワードの詰め込みや被リンク数への過度な依存といった方法で検索順位を操作するものだった。こうした手法は、競合他社よりも検索順位で上に立ちたい企業にとって確かに有効な場合があった。
しかし、このような「順位が操作された検索結果」は、ネットの利用者にとって必ずしも有益とは限らなかった。一方、LMO・LLMO・GEOは、ウェブの「案内役」のように機能することで、従来の検索モデルを覆そうとしている。
「LMO・LLMO・GEOとは、AIが単なる検索エンジンとして機能するのではなく、コンテンツの中身を解釈し、信頼できる最良の答えとして提示できるように、実際にその問いに関連性がある有用なコンテンツを作ることだ」とズダノウは語る。「LMO・LLMO・GEOの目的はシステムをうまく操ることではない。ユーザーの課題を解決することだ」。
1歩引いてこの動きを検証すると、論理的な進化の流れが見えてくる。ある技術が広く受け入れられるかどうかは、その価値によって決まる。かつての高校生が論文の参考資料を集めるための最適な方法は、図書館に出かけて書籍を調べることだった。その後、グーグルのような検索エンジンが爆発的に普及したのは、検索に従来のプロセスを上回る価値があったからだった。



