イノベーションは、才能や資本、技術、タイミングの賜物として語られがちだ。しかし、イノベーションを加速させる要素としてひどく過小評価されており、バランスシートにも特許出願書にも記されないものがある──それは、信頼できるメンターだ。
あなたがゼロから事業を立ち上げる起業家であれ、革新的なプロジェクトに着手する企業のリーダーであれ、可能性を押し広げる研究者であれ、適切なメンターは、進歩を増幅させ、リスクが現実化しそうなときのセーフティーネットになり得る。
AI、大きなインパクトをもたらす革新的な挑戦、アジャイルな転換(ピボット)がもてはやされる時代に、メンターシップは時代遅れに感じられるかもしれない。だが、メンターシップは今なお重要であるばかりか、必要不可欠だ。イノベーションがますます複雑化するなか、すでに進路を開拓した経験があり、あなたを新たな領域へと導いてくれる人物は、ますます価値が高まっている。
メンターシップがイノベーションを加速させる理由
優れたメンターは、ただアドバイスしてくれるだけではない。メンターがもたらす恩恵には、パターン認識、ネットワークの増幅、自信の裏付け、時宜を得たフィードバックといった、さまざまなものがある。メンターが提供するのは、アルゴリズムからは得られない、個人としての投資を通じた、生きた経験の共有なのだ。
スティーブ・ジョブズと、「シリコンバレーのコーチ」として知られたビル・キャンベルの関係を考えてみよう。キャンベルは、ジョブズのほか、ラリー・ペイジやジェフ・ベゾスといった多くの著名人のメンターを務めた。彼自身は1行たりともコードを書いてはいないが、彼の功績は、現代史において最も影響力の大きな製品に関する決定の数々に刻まれている。
なぜか? それは、キャンベルの助力のおかげで、多くのリーダーが曖昧な状況を切り抜け、チーム内で信頼を築き、対立を解消できたからだ。これらはイノベーションの核心要素でありながら、めったに注目を浴びない。しかし、成功と失敗を分けるのは、往々にしてこうした局面なのだ。
別の例として、補正下着で知られるファッションブランド「Spanx(スパンクス)」の創業者、サラ・ブレイクリーが挙げられる。同氏によれば、創業当初のスパンクスが成功を収められたのは、さまざまな要因のなかでも、リチャード・ブランソンのアドバイスによるところが大きいという。
ブランソンのおかげで、ブレイクリーはブランドの挑戦的な精神を失うことなく規模を拡大するにはどうすべきかを理解できた。2人の関係は、明確な目的を共有するメンターシップの重要性を理解する人々のネットワークを通じて築かれた。
何よりも重要なのは、メンターがビジネスの世界において、継続的な結果につながるイノベーションを促すことだ。
VentureWell(ベンチャーウェル)のリポートによれば、
・高成長を実現した起業家の75%にメンターがいた。
・メンターに師事する起業家は、メンターのいない起業家と比べて7倍の資金を調達し、3.5倍のユーザー増加を実現した
・創業者にメンターがいる中小企業の70%は、創業から5年以上存続した。この割合は、メンターがいない中小企業の2倍だった
メンターはまた、社内のイノベーションをけん引する役割も果たす。Deloitte(デロイト)のリポートによれば、「(メンターの活用を含めた)業績アップにつながる研修制度をもつ企業」は、そうでない企業と比べて、イノベーションを実現する確率が92%高く、業界で最初に上場する確率が46%高い。



