がんの総元締め、親玉、黒幕とされる「がん幹細胞」。こいつを叩けばがんは治せると言われているのだが、厄介なことに、がんには治療をはね除ける特殊能力がある。その力がどこから来るのか、岐阜薬科大学の研究チームは骨肉腫のがん幹細胞を調べたところ、そこで暗躍する用心棒の存在を突き止めた。さらに、そいつの手を縛ることで、がんの成長や転移が抑えられることがわかった。
がん幹細胞は、がん細胞の増殖や転移を行うがんの親玉だ。がん細胞をどんどん作る一方で、抗がん剤や放射線による治療に対して高い抵抗性を示す。研究チームが骨肉腫患者の腫瘍組織を解析したところ、がん幹細胞に「ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ1」(PDK1)という因子が通常よりも多く存在し活発に活動していることが判明した。PDK1が多く活動している患者の生存率は低かった。もうひとつ、がん細胞のエネルギー源が、特殊な解糖系と呼ばれる代謝システムにシフトしていることも明らかになった。
そこで、骨肉腫のがん幹細胞のPDK1の働きを抑制してみたところ、がん幹細胞の機能の指標とされるスフィア形成能(増殖力を高めるために細胞が球状に固まる能力)が大幅に低下した。また、骨肉腫のがん幹細胞を移植したマウスにPDK1を不活性化する細胞を移植すると、腫瘍の発達が著しく抑えられることがわかった。さらに、そのメカニズムを解明したあと、PDK1阻害剤を作ってがん幹細胞に投与したところ、同じ効果が示された。
骨肉腫に限らず、がん幹細胞を叩けばがんは治ると言われてきたが、今回の研究は、それにひとつの証拠を提示した形になる。PDK1と解糖系のエネルギー代謝システムががん治療薬の新たな標的として非常に有効であることが確認され、がん根治に向けた大きな前進となった。



