トランプ政権が欧州連合(EU)を含む80カ国以上への追加関税を適用すると発表する数週間前、オランダの不動産ビリオネアであるレモン・ヴォスは、自身が率いる中東欧最大の不動産企業CTPの先行きに楽観的な見方を示していた。
2月27日に開催されたCTPの決算説明会で、ヴォスは欧州向け製品を手がける東アジア企業の工業団地への入居が急増していると明かし、次の様に述べた。「アジア企業は、関税を回避するために欧州に拠点を移し始めている。これは、当社にとって追い風だ」。
上場企業であるCTPは、トランプ政権による関税措置に端を発した株式市場の暴落の影響を受け、4月2日の発表から関税発動までの1週間で株価が12%下落した。それでも、この下落幅は同業他社に比べて限定的だった。(4月9日にトランプが10%の世界一律関税を除き、他の追加関税を90日間延期すると発表し、CTP株は4%回復した。)同社株式の73%を保有するヴォスの推定資産は60億ドル(約8870億円)に達し、フォーブスの「2025年版 世界長者番付」に初めてランクインした。
中東欧10カ国で圧倒的なプレゼンスを誇るCTPは、土地や労働コストが西欧より低く、米国経済への依存も限定的なチェコ共和国とルーマニアにおいて、特に高い市場シェアを誇る。こうした構造は、関税引き上げの潮流が同社に追い風となる可能性を示唆している。各国が関税を引き上げ、欧州市場を目指す企業がコスト回避のため現地生産へとシフトすれば、CTPの産業用不動産に対する需要は一段と高まることが予想される。実際、同社の保有物件の10%以上には欧州向け製品を手がけるアジア企業が入居しており、顧客には日立や韓国の現代自動車といった大手も名を連ねている。また、2024年に締結された新規賃貸契約のうち20%がアジア企業によるものだった。
現在54歳のヴォスは、常に新しいディールを求めて精力的に動き回っている。ある月曜日の午後、彼はフォーブスのインタビューに1時間にわたり応じた。彼は、月曜はプラハにあるCTP本社で執務にあたり、それ以外の日は東欧各地をプライベートジェットで飛び回る多忙な日々を送っている。同社の本社ビルは、ガラス張りの近未来的なデザインが特徴で、ハプスブルク時代のアールデコ建築が立ち並ぶ街並みの中でひときわ目を引く。
「ここは会議室で、私のオフィスは本社にはない。今夜はルーマニア、来週はアジアへ向かう。それがいつものスタイルだ」と語るヴォスは、白のシャツにダークカラーのネクタイ、丸縁の黒い眼鏡をかけ、ブロンドの髪を横になでつけた、いつも通りの装いで取材に応じた。「私は各国を飛び回り、同僚と共にプロジェクトや土地を見て回る。ITや人事の話は私に聞かず、ディールの話をしよう」と彼は語った。



