ヴォスは、2021年にCTPの株式上場に踏み切った。このIPOは、当時としては過去7年間で最大規模の欧州不動産企業による上場案件となり、10億ドル(約1480億円)を調達した。ヴォス自身も1億1200万ドル(約166億円)相当の持ち株を売却し、その収益を借入金の返済に充当した(2023年には返済を完了している)。潤沢な資金を背景に、CTPは2022年にドイツで7億8600万ドル(約1160億円)相当の産業用不動産ポートフォリオを取得したほか、ポーランドでは2600万平方フィート(約242万平方メートル)に及ぶ土地を確保した。また、オーストリア、ブルガリア、オランダ、セルビアにも進出した。
ヴォスは、30年に及ぶ不動産業界でのキャリアを通じて、危機の中にこそ成長の機会があることを学んできた。CTPは、2008年の世界金融危機、新型コロナウイルスのパンデミック、そしてウクライナ戦争といった局面において、生き残るだけでなく、安価に土地を取得し、新規テナントの誘致に成功してきた。「私は、変化こそが最大のチャンスだと考えている。重要なのは、迅速に動き、状況を的確に見極め、集中力を切らさないことだ」と、ヴォスは語る。
東欧における産業用不動産ブームの恩恵を享受しているのは、CTPだけではない。米国大手のプロロジスをはじめ、非上場のパナトニ・デベロップメントも域内に大規模なポートフォリオを保有している。ベルギー人の元ビリオネア、ジャン・ヴァン・ギートが率いる上場企業VGPも、存在感を強めている。KBCセキュリティーズのレウィは、ヴォスとヴァン・ギートの競争についてこう語る。「彼らはプライベートジェットで欧州を飛び回り、営業提案を競い合っている」。
東欧最大手のCTPが競合と一線を画す最大の要因は、その卓越した開発スピードにある。多くの競合が成約率がほぼ100%に達するまで着工を控えるのに対し、CTPは前契約率が30〜40%の段階で開発に踏み切る。さらに、同社は開発を自社で手掛けており、顧客のニーズに応じてより迅速に対応することが可能だ。「CTPは、既存テナントに隣接する土地を保有しており、何もない場所で開発を行う場合と比べて、事業リスクを抑えられる」と、パリを拠点とする金融サービス企業ODDO BHFのアナリスト、スティーブン・ブーマンは指摘する。


