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2025.08.20 10:00

トランプ関税も追い風に、欧州で不動産帝国CTPを築いたビリオネアの素顔

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ヴォスは、約30年にわたり旧東欧諸国で不動産取引を手がけてきた。彼は、1998年にプラハでCTPを共同設立して以来、同社を欧州第2位の産業・物流不動産開発企業へと成長させた。現在、CTPは工業団地と物流倉庫を合わせて1億4300万平方フィート(約1330万平方メートル)以上を保有し、テナントにはDHL、H&M、ルノー、医療機器大手のサーモフィッシャーサイエンティフィックなどが名を連ねる。また、同社は競合を大きく引き離す2億8400万平方フィート(約 2640万平方メートル)超の土地を保有しており、その多くは用途指定・許可が完了している。既存施設に隣接する立地が多いため、テナントの需要に応じて迅速に拡張することが可能だ。同社は、2021年にアムステルダム証券取引所に上場している。保有物件の賃貸収入拡大を背景に業績は堅調に推移しており、2024年の売上高は前年比29%増の9億ドル(約1330億円)、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は同17%増の6億1400万ドル(約908億円)を記録した。

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ヴォスは、まずチェコ共和国において、安価な労働力と土地という好条件を活かして事業を拡大した。その後、EU加盟を果たした旧東欧諸国全域へ事業を拡大し、CTPの基盤を築き上げた。同社の立地は、西欧市場に製品を輸出する多国籍企業に対して競争優位性をもたらしている。新型コロナウイルスのパンデミック以降、最終消費地の近くに生産拠点を移転する「ニアショアリング」の潮流が加速すると、CTPはその最大の恩恵を受ける立場に立ち、中国や米国といった遠隔地からも新たな顧客を取り込んだ。ヴォスは、2019年に故人となった共同創業者の持ち分を買い取り、上場前にはCTPの全株式を保有していた。静的な商業用不動産業界において、彼はスタートアップ企業のような積極性をもってCTPを急成長へと導いてきた。

「CTPにとって、レモンはバッテリーであり原動力そのものだ。ディールをまとめ上げる力を持ち、同じ仕事観を共有する精鋭を集めている。その組織力は、まるで米海軍特殊部隊ネイビー・シールズのようだ」と、ベルギーの金融サービス企業KBCセキュリティーズのアナリスト、ウィム・レウィは話す。

「彼はまるで原子力発電所のように無尽蔵のエネルギーを持っている。その存在は計り知れない価値をもたらす一方で、彼と共に働くことは大きなストレスを伴う。なぜなら、彼のスピード感に食らいついていくには、常に最高のパフォーマンスを発揮し続けなければならないからだ」と、CTPの最高執行責任者(COO)であるピーター・セレズニクは言う。

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編集=朝香実

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