米国で現金給付を受けている低所得者は救急外来で治療を受けることや、入院することが少なく、外来で「サブスペシャリティ(副専門分野、特化された狭い分野を対象とする専門医)」の治療を受けていることが多いという。
JAMA(米国医師会雑誌)に発表された論文によると、マサチューセッツ州チェルシーで低所得者向け住宅への入居を申し込んだ約2900人の低所得者を対象に調査したところ、そのうち約1750人が、過去9カ月に毎月400ドル(約5万9000円)の給付を受けていた。そして、受給者はそれ以外の人たちと比べ、救急外来で診察を受けることが27%少なくなっていた。
この調査結果が明示するのは、社会経済状況は人々の健康に多大な影響を及ぼしているということだ。だが、具体的にはどのように、健康状態を左右しているのだろうか? 主な要因として挙げられるのは、以下の4つの問題だと考えられる。
医療へのアクセス
一般的に、所得が多いことはより質の高い医療サービスを受けることにつながる。収入が多い人たちほど、医療保険に加入し、受診したり、処方薬を購入したり、予防のための介入を受けたりしている。
一方、低所得の人たちにみられるのは、医療費があまりに高額だとして、受診をちゅうちょする傾向だ。それは、早期に介入すればコントロールすること、あるいは治すことできる病気を、治療せずにそのまま放置することにつながる。
米カイザー・ファミリー財団によると、米国では2022年、非高齢者の約2600万人が、医療保険に加入していなかった。さらにその約64%が、未加入の理由を「保険料が高すぎるため」だとしていた。
例えば、肺がん検診のために受ける低線量CT胸部検査の自己負担額は、約300ドル(約4万4000円)となっている。だが、保険は契約内容によって適用範囲が異なる(すべての保険がその費用をカバーするわけではない)。
そして、米国肺協会によると、肺がん患者の半数近く(44%)は生存率がわずか7%にまで低下するステージ4にまで進行してから、がんと診断されているという。
すべてのがんの中で最も致死率が高いものの、肺がんは治療と治癒が可能な病気だ。だが、それでも低収入の人たちは、治療・治癒が可能な段階で検査・診断を受けることが少なくなっている。
生活環境
所得が健康に及ぼす影響を決定づけるもう一つの重大な要因が、生活環境だ。裕福な人たちは、犯罪率が低く、より良い教育機関があり、ジムや公園など心身の健康増進のために役立つ施設がある地域に住宅を購入することができる。一方、低所得の人たちは、カビや大気汚染をはじめとする環境ハザードの影響を受ける可能性が高い地域に住むことが多くなる。
例えば、咳や呼気性喘鳴(ぜんめい)、胸苦しさといった症状が起きる閉塞性換気障害のぜん息にはホコリやカビ、大気汚染を含む数多くのアレルゲンが関連しており、貧困地域で常にこうした環境ハザードにさらされている人には、この病気を発症する可能性が高くなる。そして、ぜん息は適切な治療を受けることができなければ、命に関わることもある病気だ。



