北半球における白夜の南限から北に200キロ、スウェーデンの北極圏にある小さな村、ユッカスヤルヴィに12〜4月だけ出現する「ICEHOTEL(アイスホテル)」(現在は夏場でも一部が保存される)。「目的」ではなく、手持ちの「手段」から生み出せる効果(effect)を重視する「エフェクチュエーション」の考え方※を実装した起業の成功ケースとして『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(吉田満梨、中村龍太著)にも紹介された。
「客室」は-5度、宿泊者はトナカイの毛皮が敷かれた氷のベッドで眠る——。この「世界一不思議なホテル」を、社長のイングヴェ氏と何度も会ったことがあるという、スウェーデン・スンツバル在住の翻訳者で作家の久山葉子氏が訪れた。併せて久山氏のYouTubeも紹介する。
世界から1年に7万人が訪れる!
スウェーデンの北極圏という辺鄙な場所にあるにもかかわらず、毎年世界から7万人(見学のみも込み)が訪れるホテル、それがアイスホテルです。冬はオーロラ、夏はミッドナイトサンが見られる旅行地としても人気です。 冷たい氷のスイートルームは1泊4500~12000スウェーデンクローネ(約6万7500円~18万円)するにもかかわらず、満室になる日も多いといいます。

Photo: Asaf Kliger https://www.icehotel.com/
このアイスホテルのアイディアは1989年、スウェーデンのキルナで開かれた全国スキー選手権時に市内のホテルが満室になり、海外から来たゲストが泊まれなくなったときに生まれたそうです。のちに社長となるYngve Bergqvist(イングヴェ・ベリィキュヴィスト)氏が「氷と雪でつくったアートギャラリーの中に宿泊してはどうか」と提案したのです。暖かい寝袋とトナカイの毛皮で1晩過ごしてみたところ、「素晴らしい体験だった」と評判になりました。

Photo:(左上 から時計回りに)Icehotel公式、Asaf Kliger、"ミッドナイトサン Asaf Kliger、Design: Eryk Marks and Tomasz Czajkowski", Asaf Kliger https://www.icehotel.com/
ユッカスヤルヴィはトルネ川のほとりにあります。この川のおかげで昔はサーミ人の交易の場所として栄えてきました。今では冬になると凍った川の氷を切り出してホテルを建造し、春になると氷が溶けてホテルは消えてしまう――まさに自然の息吹と一体となったホテルなのです。
氷のアートの美しさに世界中から注目が集まり、1997年にはスウェーデンのウォッカブランド〈アブソルート〉とイタリアのファッションブランド〈ヴェルサーチ〉とコラボして、写真家ハーブ・リッツがケイト・モス、ナオミ・キャンベル、マーカス・シェンケンバーグといったスーパーモデルを撮影したこともあります。



