音楽を奏でることは脳に良い。音楽が記憶力に及ぼす効果についてはすでに多くの証拠が示されてきたが、このほど、楽器を演奏する高齢者は、音声と雑音を区別しやすいことが明らかになった。実験に携わった研究者らは、年配の音楽家は「若者のような聴力を持っている」と評価した。
誰かが話している時、聞き手は周囲の雑音から相手の声を拾い上げる必要があるが、高齢になるとこの作業が難しくなる。音声を雑音から区別する際、高齢者の脳は若い頃より激しく動かなければならなくなるからだ。その活動の様子は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で観察することができる。
米科学誌PLOSに掲載された今回の研究では、被験者を3つのグループに分け、音声と雑音をどれだけ区別できるかをfMRIで診断した。1つ目のグループは楽器を演奏しない高齢者、2つ目のグループは同じく音楽家ではない若年層、そして3つ目のグループは30年以上演奏を続け、今でも週に数時間楽器を練習している年配の音楽家だった。実験では、全員に中国語で数音節を話す女性の音声録音を聞かせた(実験は中国で行われ、参加者は全員中国語を母国語としていた)。被験者はfMRI装置に横たわったまま、どの音節を聞いたかを示すボタンを押した。
その結果、音楽家ではない2つのグループを比較すると、高齢者の方が若者より音を処理する脳の動きが活発であることが分かった。一方、年配の音楽家の脳の活動は若年層の動きに近く、音楽家でない同世代のグループよりはるかに良い結果を示した。
各グループの人数は約25人だった。この数字はそれほど大きくないが、楽器演奏が脳の老化を遅らせることは過去の研究でも示されている。
人生の後半で楽器を習い始めても脳に良い影響が
昨年、英国で行われた数千人の高齢者を追跡調査した大規模な研究でも、音楽と高齢期の脳活動の間に相関関係があることが判明した。長年にわたって楽器を演奏し続けてきた人は、音楽家ではない同年代の人と比べて記憶力が良く、複雑な課題を解決する能力が優れていた。これに先立つ研究では、わずか6カ月間音楽のレッスンを受けただけで脳の灰白質と作業記憶が増加することが示された。さらに別の研究では、音楽家は高齢になっても音楽に基づく言語記憶課題で良い成績を上げた。
これらの研究はすべて、記憶課題を用いるもの、脳の活動を直接測定するもの、試験や質問票を用いるものなど、微妙に異なる事柄を観察している。しかし、そのすべてに共通して言えることは、音楽家は加齢による脳機能の低下の影響を受けにくいということだ。これらの実験に参加した音楽家の多くは何十年も楽器を演奏していたが、人生の後半に楽器を習い始めた場合でも、記憶力に対する良い効果が得られたことを示す研究結果もある。
今回の雑音下での会話に関する研究論文の筆頭著者である中国科学院大学の張磊教授は、「前向きな生活は、高齢者が認知の老化に対処する上で役に立つ。楽器演奏を習うなど、やりがいのある趣味を始めるのに遅すぎるということはない」と語った。人生の後半に健康を維持する方法は数多くあるが、楽器演奏は最も楽しいものの1つではないだろうか。



