米国南東部では今年これまでに、「人食いバクテリア」と呼ばれる細菌ビブリオ・バルニフィカスに感染し9人が死亡した。この細菌は温かい水の中で増殖する性質があり、沿岸部を襲うハリケーンによって感染がさらに拡大する恐れもある。
複数の州の保健当局は、ビブリオ・バルニフィカス感染症の発生数が異常に増加しているとして、住民に警戒を呼びかけている。これまでに11州で数十件の症例が確認され、少なくとも9人が死亡。さらに1人が、別のビブリオ属菌により死亡した。
米ニュース番組トゥデーの報道によれば、今年これまでに少なくとも57人の感染が確認されており、特に多い州はルイジアナ(17人)、フロリダ(13人)、ノースカロライナ(7人)となっている。
フロリダ州で5人、ルイジアナ州で4人がビブリオ・バルニフィカス感染症で死亡しているが、感染経路ははっきりしていない。この細菌は汚染された海水に触れたり、貝類を生または加熱不十分な状態で食べたりすると感染する可能性がある。
ビブリオ属菌は温かい水を好むため、感染はもともと夏季に多い。だがフロリダ大学のアンタルプリート・ジャトラ教授(工学)はNBCニュースに対し、「夏の早い時期にこれほど多くの症例が報告されたことは長い間なかった」とし、「正常ではないことは確かだ」と述べた。またトゥデーは別の専門家の話として、感染者数はここ6〜7年、徐々に増加していると伝えている。
ビブリオ・バルニフィカスとは
ビブリオ属菌は沿岸海域に自然に存在する細菌。感染症を引き起こす種類は十数種あるが、その中でもビブリオ・バルニフィカスは重症化や死の恐れがある。ビブリオ属菌は温暖な海水、特に汽水域(河口や湿地に見られる淡水と海水の混合水域)で増殖する。
感染経路は
ビブリオ属菌は、菌が口や傷口に入ることで感染する。米疾病対策センター(CDC)によれば、最も一般的な感染経路は汚染された食品(主に牡蠣などの貝類)を食べることで、年間症例の過半数がこれに該当する。傷口が海水に直接触れることでも感染する可能性があり、ビブリオ・バルニフィカスは壊死性筋膜炎を引き起こして傷口周辺の皮膚や組織を破壊することから「人食いバクテリア」と呼ばれている。人から人への感染は確認されていない。
主な症状は
生の魚介類を食べて感染した場合は、発熱、悪寒、皮膚の水疱、低血圧などが生じる。傷口からの感染では、発熱、発赤、疼痛、腫れ、分泌物、変色などの症状が伴う。ビブリオ・バルニフィカス感染症は、便や創傷、血液の検体を使った培養検査で診断される。
致死率は
ビブリオ・バルニフィカス感染症は重篤化する恐れがあり、集中治療や手足の切断が必要になる場合もある。CDCによれば、感染者の約5人に1人が死亡し、発症からわずか1〜2日で死亡することもある。
ハリケーン襲来で悪化も
ビブリオ・バルニフィカス感染症はハリケーンの後に増加する傾向がある。フロリダ大学新興病原体研究所のポール・グリグ教授は、ハリケーン「カトリーナ」「イルマ」「イアン」がこの細菌の存在を広く知らしめるきっかけになったと指摘する。ハリケーンにより街が汽水で浸水すると、ビブリオ・バルニフィカス感染症が増加。フロリダ州では、ハリケーンが多数到来した昨年の症例数が82件となり、2023年の46件から増加した。
米国立気象局は、海水温の上昇により今年は平年よりハリケーンの数がやや増えると予測。米海洋大気庁(NOAA)は、今年は名前が付く熱帯低気圧が13〜19個発生し、そのうち6〜10個がハリケーンに発達するとみている。



