経済・社会

2025.08.12 08:15

冷酷なほど巧みな用兵術 李在明「トランプファースト外交」で大丈夫か

李在明大統領(Photo by Jeon Heon-Kyun - Pool/Getty Images)

李在明大統領(Photo by Jeon Heon-Kyun - Pool/Getty Images)

韓国メディアによれば、米韓両国は8月25日に首脳会談を開く方向で最終調整している。両国が7月末、関税交渉で合意したことが大きな契機になった。米国が韓国に課す相互関税は25%から15%に引き下げる。韓国は3500億ドルを米国に投資するという。米韓交渉は、日米が合意した7月22日過ぎから慌ただしくなり、約1週間で合意にこぎつけた。

この間の韓国の動きをみていると、李在明政権と尹錫悦前政権との違いがよくわかる。交渉の最終盤、韓国は国家安保室長、通商交渉本部長、経済副首相兼企画財政相らを次々とワシントンに送った。この間、李在明大統領はほとんど交渉について言及していない。李在明大統領は合意直後の7月31日、ようやく「大きな峠を越えた」とSNSに投稿した。韓国政府元高官は「外交の経験がほとんどないのに、李大統領は韓国外交の弱点をよくわかっている」と語る。

韓国では絶大な権力を握る大統領が先走った発言をして、しばしば外交実務当局の大きな負担になってきた。朴槿恵元大統領は在任当初、「慰安婦合意がなければ、日韓首脳会談を進めたくない」と言って、周囲を困らせた。尹錫悦前大統領は2022年3月の大統領当選直後、新型コロナウイルスの感染拡大によって凍結されていた羽田空港と金浦空港を結ぶ航空便の再開をいち早く口にし、当局を慌てさせた。韓国政府元高官は「李大統領は当局者たちを競わせる。手柄は自分のものとし、失敗の責任は部下に取らせる」と語る。

米韓関税交渉に携わった韓国当局者たちも淡々と職務をこなした。韓国政府元高官は「李大統領はナンバー2を作らせない。スタンドプレーを極端に嫌う」とも語る。今回の関税交渉では、文在寅政権で大統領府国家保安室第2次長を務め、通商交渉のエキスパートを自認する金鉉宗氏の姿はなかった。金氏は李氏が当選する前の今年5月、ホワイトハウスを訪れて米政府高官と意見交換していた。

そして米国との交渉では、トランプ政権を十分研究した跡がうかがえた。韓国はトランプ政権が大統領令を出すなど米造船業復活に血眼になっている状況を把握。3500億ドルの投資額の相当部分を造船業分野に充てる。トランプ氏が好んでかぶる「MAGA(Make America Great Again)」にそっくりなデザインの「MASGA(Make America Shipbuilding Great Again)」の帽子を作って米国に持参した。韓国政府元高官も「ひたすら、トランプ氏の機嫌をよくする点に集中していた」と語る。

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