経済・社会

2025.08.12 08:15

冷酷なほど巧みな用兵術 李在明「トランプファースト外交」で大丈夫か

李在明大統領(Photo by Jeon Heon-Kyun - Pool/Getty Images)

トランプ氏は7月30日、米韓関税交渉の妥結を受けて、「(具体的な韓国の投資計画は)今後2週間以内に李在明大統領とホワイトハウスで二国間首脳会談を行った後に発表する」と投稿した。韓国政府関係者によれば、この時点で米韓実務当局の間で「2週間以内に米韓首脳会談を実施」という合意はなかった。トランプ氏は関税交渉の成功に喜び、気分が良くなったところで即興的にSNSへ投稿(を指示)したようだ。元高官は「一方的な発表は、外交儀礼上非常に失礼な話でもある。でも、トランプ氏が会談に応じてくれるのはありがたい」と語る。

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日米交渉でもそうだったが、米韓交渉でも合意文書は作成されなかった。「トランプ氏と他の閣僚たちとの間には大きな断絶がある」(日本外務省元高官)からだ。下から積み上げて合意文書の草案をつくっても、トランプ氏が個人的な関心から大きく作り変えてしまう。イエスマンしかいない第2次政権の大きな特徴だ。

米韓関係も、トランプ氏がカネの問題に執着するため、安全保障分野での協議は全く進んでいないという。トランプ氏が「米韓首脳会談をやるぞ」と宣言したので、ようやくルビオ国務長官やヘグセス国防長官らが韓国側と具体的な議題設定を始めたようだ。最初の米韓首脳会談で、トランプ氏の目は「韓国の国防費の対GDP(国内総生産)比5%までの増加」「在韓米軍に対する韓国の防衛費分担金の大幅増」など、カネの話に向いている。わずか数日の滞在では、在韓米軍の削減・移転や戦時作戦統制権の韓国軍移管など、複雑で困難な安保課題については「今後、協議を開始する」という程度の合意でお茶を濁すだろう。

李在明政権は上述したようにトランプ政権の特徴をよく研究している。米韓首脳会談では、李大統領は韓国の財閥トップらを引き連れて米国に乗り込み、投資の話をさせてトランプ氏の歓心を買おうとする可能性が高い。

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李在明政権の「トランプファースト外交」には危うさも付きまとう。安全保障で、トランプ氏が今後、「カネの節約になるから」という理由で米韓合同軍事演習の縮小を提案すれば、李在明氏は支持基盤の進歩(革新)勢力が喜ぶため、この提案を受け入れる可能性がある。トランプ氏が米朝首脳会談に関心を示しても、李政権は「トランプ氏と進歩勢力の両方が喜ぶ」と考えて支持するだろう。

韓国メディアによれば、李在明大統領は訪米前に日本を訪れ、石破茂首相と会談する方向で調整している。トランプ第1次政権当時、安倍晋三首相は米韓演習の縮小や凍結に強く反対していた。石破首相も日韓首脳会談では日韓協力を確認すると同時に、日米韓協力が変な方向に進まないよう、きちんと釘をさすべきだろう。

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