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2025.08.13 14:15

AIトラッキング・スポーツテックの未来、なぜMIXIとPlayboxは「世界最高峰」に挑んだのか

出会いはX(旧Twitter)から、異色のタッグ誕生の必然

MIXIは近年、JリーグのFC東京やBリーグの千葉ジェッツふなばしへの出資を通じ、スポーツ事業を拡大している。社内ではテクノロジーを駆使した映像解析のR&Dが進められたが「社内に十分な知見がない」という課題に直面。周辺技術のリサーチに奔走していた。その中で一筋の光明となったのが、Playbox代表取締役スコット アトムさんが個人でXに投稿していた論文や技術デモであった。

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「市販のカメラで、非常に高度なサッカーのプレー分析を実現している。アトムさんの発信は非常に参考になりました。いつかご一緒できたら…とチーム内で話していたんです」。MIXI開発本部たんぽぽ室AIモデリンググループの渡辺莉央さんは、そう告白した。

そんな折、FC東京のアナリストから紹介を受けたのが、まさにそのPlayboxであった。運命的な出会いを経て、まずは業務委託という形で技術ディスカッションを開始。その過程で、Playboxが持つ技術力とノウハウが世界レベルであることを確信したMIXIは、より強固なパートナーシップを提案。「お互いのノウハウを組み合わせれば、単なるアウトソーシングでは到達できない、より高い成果を生み出せる。日本のサッカーの解析技術を共に底上げしたい」。この想いにアトムさんをはじめPlayboxも共鳴し、2024年12月、世界へ挑戦するためのドリームチームが正式に結成された。それは、戦略的ビジョンを持つ大企業と、尖った技術を持つスタートアップが、互いの価値を認め合った末の必然的な帰結だろう。

チームが挑戦の舞台に選んだのは「CVPR」。AI、特にコンピュータビジョン研究の分野で、その名を世界に轟かせる最高権威の国際会議だ。この選択の裏には、学術的な探求心だけでなく、極めて現実的な理由があった。

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「本来であれば、FC東京の試合映像を研究開発に活用したかった。しかし、著作権などの問題があり、すぐには使えなかったのです」と登内さん。実際のJリーグの試合映像を利用したいのは山々。FC東京との親和性を考慮すればなおさらだ。だが、Jリーグ公式試合映像には放映権が存在する。このためMIXIをしても、これを自由に使用することはかなわない。利用のたびに著作権をクリアしなければならない作業は、大きな制約となった。

この「制約」が、両社を世界へと向かわせた。自前のデータが使えないのであれば、公開されているデータセットを使い、世界共通の土俵で技術力を証明するしかない。世界最高峰のCVPRで成果を出すことは、Playboxにとっては「最先端技術で勝負できるベンチャー」としての存在証明であり、MIXIにとってはR&Dチームの価値を啓蒙し、将来の事業化に向けた強力な社内「プレゼンス」を確立する最善の選択肢となった。

コンペティションの課題は、1台の固定カメラから撮影された映像のみを使い、ピッチ上の全選手の2次元における位置、所属チーム、背番号、任意の人物の役割(選手か審判かなど)といった複雑な「試合状態(Game State)」を完全に自動で認識させるというもの。これが「GSR」技術の核心である。

24年の同コンペティションにおいては、「優勝チームの精度が約60%であったのに対し、2位は40%台と大きな開きがありました。我々もお試し用のデータセットでは58.06%という精度を保ち、その時点では1位のスコアを記録しました。『これは行ける!』と本番データに挑戦しました」。するとMIXI・Playbox連合は、61.64%という極めて高い精度を記録。優勝の可能性が見えたように思われたが、これを上回るチームが3組あり、惜しくも4位という結果となった。

「でも、優勝チームの精度は63%だったんですよ(苦笑)」。つまり、最終的に優勝を僅差で逃したものの、世界王者と互角に渡り合った。この成果は、両社の技術が紛れもなくワールドクラスである事実を証明。また、優勝チームの精度が昨年からたった3ポイントしか向上していない点を振り返ると、AIによる自動生成データの精度向上がいかに困難かを物語っている。

次ページ > GSR技術の優位性 「どんな映像でも解析可能」な汎用性とハイブリッドAI

文=松永裕司

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