政治

2025.08.09 09:00

壮大な虚飾にまみれた米EU貿易「合意」 曖昧さやリスク残る

英スコットランドのターンベリーで2025年7月27日、会談したフォンデアライエン欧州委員長とトランプ米大統領(Andrew Harnik/Getty Images)

筆者の見るところ、今回の合意に関しては警戒すべき余波がいくつかある。まず、この合意は大西洋を挟んだ関係、つまりは欧州と米国の関係をさらに傷つけた。EUと米国の信頼レベルはおそらくこれまでで最低に下がっており、これはロシア・ウクライナや中東の情勢にも戦略的な影響を及ぼすだろう。もうひとつの余波として、欧州の政府や消費者は米国ブランドを避けるようになるかもしれない。これは欧州に限らず、ほかの地域でも起こる可能性がある。

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さらに、考えられる金融市場への影響として2つ挙げておこう。ひとつは、欧州では経済成長の鈍化によって、引き続き金利に下押し圧力がかかるだろうということだ。もっと重要なのは、ドルがかなり売られすぎているなか、EUの政策当局にユーロ安へ誘導する動機づけが生じたことである。短期的にはドルがユーロに対して反発するかもしれない。

総じて言えば、米・EU間の今回の合意は、もしそれが「最終的」なものとなり、向こう3年にわたり関税問題が再燃しないのであれば、EUにとって世論受けは良くなくとも、域内の半導体、自動車、航空宇宙分野にとって悪くない内容だろう。欧州にとってこの合意の最良の部分は、米国への投資と米国からのエネルギー購入に関する非現実的な約束だ。これはミティ風のおとぎ話であり、欧州側はトランプがそれを信じ込んでくれることを願っている。

とはいえ、本質的な問題は、この合意によって、米欧関係に残されていた「善意」が使い果たされ、トランプによる外交断絶がまたひとつ完成されてしまったことだ。欧州側にすれば、これは再び鳴らされた警鐘であり、最も望ましい展開は、これを機に「貯蓄・投資同盟」や「戦略的自律」といったプロジェクトが加速することだ。欧州の首脳や政策エリートはこうした構想を口にし続けているものの、その実現に向けた確かな動きが出てこない限り(たとえばドイツの実質国内総生産=GDP=は過去5年、ほとんど成長していない)、彼らもまたミティのような空想家にすぎないということになる。

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forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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