政治

2025.08.09 09:00

壮大な虚飾にまみれた米EU貿易「合意」 曖昧さやリスク残る

英スコットランドのターンベリーで2025年7月27日、会談したフォンデアライエン欧州委員長とトランプ米大統領(Andrew Harnik/Getty Images)

政治的にEUが今回の合意について打ち出している解釈は、困難な地政学的状況(EUがこのほど中国と行った首脳会談が期待外れのものだったことも思い出そう)のなかで得られる最善の結果だったというものである。フランスのフランソワ・バイル首相をはじめ、欧州の一部の政治家からは公然と不満の声も上がったが、こうした発言はEU当局に向けたものというよりも、むしろ世論を意識したものとみるべきだろう。

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ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長はEU各国の政府の間で人気がない。それは彼女による欧州委員会の特異な運営方法が理由だ。具体的に言えば、現在の欧州委員会は各国政府に近い高官(たとえば、フォンデアライエンの補佐役のひとりであるアレクサンドル・アダムは筋金入りのマクロン主義者だ)で占められている。しかし、フォンデアライエンがいくら不人気だといっても、今回の交渉過程でEUの大国が排除されていたようには見受けられず、彼女ひとりに責任を負わせようとするのは品性に欠く行為だと言わざるを得ない。

とはいえ、EUの通商官僚の間では、この合意の見てくれが屈辱的なことに加え、多くの点で拘束力がないこと、また、最終的なものだという確約もないため、将来的に新たな関税を課せられるリスクが残っていることに、なおやるせない思いがあるようだ。

一方で、欧州にとって好都合な側面もある。それは今回の合意の「ミティ的」な部分とも言えるが、合意に含まれる2つの主要な約束は実施方法がまったくもって明らかでなく、うまく「会計処理」すれば取り繕える余地も多分にあるのだ。2つの約束というのは、欧州企業が米国に6000億ドル(約88兆円)投資することと、EUがトランプの残りの任期中、米国から3年で7500億ドル(約110兆円)相当のエネルギーを購入することだ(欧州は米国からほかに半導体も調達する)。このうち、後者のエネルギー購入はとくに非現実的である。1年で2500億ドルというのはEUによるエネルギーへの年間支出額を超えているし、そもそも米国のエネルギー企業側にしても、欧州からのこれほどの規模の需要に応えつつ、ほかの市場にも供給していく能力を持ち合わせていない。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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