アスエネは7月16日、「ASUENE SUSTAINABILITY SUMMIT 2025」を開催。脱炭素に関わる有識者や先進企業らが登壇し、トレンドや取り組みなどを紹介した。その模様の一部をお伝えする。
「100年先を変えるために、まず明日を変える」をコンセプトに脱炭素社会実現に向けた事業を行うアスエネは7月16日、旗艦イベントと位置付ける「ASUENE SUSTAINABILITY SUMMIT 2025」を開催した。トランプ政権2.0がアメリカの環境施策に影響を及ぼすなか、世界の趨勢はどうなっていくのか。脱炭素に関わる有識者や行政、研究者、先進企業の代表者が登壇し、そのトレンドや取り組みなどについて講演した。
グローバルで活躍するために必要なこと
冒頭、アスエネFounder & 代表取締役CEOの西和田浩平が「世界の気候変動最新動向と日本が脱炭素産業をリードする未来へ」と題して講演。西和田は、産業革命前と比較して世界の平均気温が1.5度上昇したことの影響やリスクを紹介したうえで、サステナビリティのルールに関する中心地は欧州であると指摘。一方、米国ではトランプ政権による逆風が起きているものの、冷静に判断していく必要があると参加者に呼びかけた。
「減税法の成立により、風力発電やEV、太陽光発電の一部の控除が減る方針が発表され、米国全体でいうと、気候変動に対してネガティブです。一方で州政府に関しては、誰が大統領になろうとやることは変わらないので、ニューヨーク州、カリフォルニア州、イリノイ州といった州では、引き続き開示規制が強まっています。カリフォルニア州だけでGDPは日本と同じ規模ですし、州ごとに見ていく必要があります」
また西和田は、アスエネが米TIME誌の「World's Top GreenTech Companies 2025」で、世界8,100社のうちTOP1%の86位に選出されたことを紹介。同ランキングは、地球環境への好影響をもたらす製品・サービス・技術を開発するグリーンテック企業を対象にしたもので、この分野で世界をリードできるチャンスがあると西和田は強調した。
「日本企業で選ばれたのは3社のみ。当社はCO2排出量を見える化するクラウド企業としては唯一の選出で、グローバルでもNo.2まできています。日本発でグローバルをリードできるのではないか?というのが、今回のイベントの一番のテーマです」
続いて、元プロテニス選手でスポーツキャスターの松岡修造を迎え、「日本発で世界No.1の挑戦〜その情熱を、サステナブルな未来へ〜」をテーマに、西和田との対談が行われた。
西和田が、グローバルに挑戦する際の苦労について尋ねると、松岡はこう語った。
「日本人が世界で活躍するには大きな壁がありました。当時、アジア人選手は一人もいなかったので、誰も練習相手になってくれません。それでも毎朝、大会会場で外国人選手に『練習をお願いします』と言い続けました。最初は目も合わせてもらえませんでしたが、やがて応じてくれる選手が現れ、そこから誰よりも練習を重ねました。強い人と練習すれば、自分のレベルがどんどん上がる。こうして一つひとつ壁を乗り越えていきました」
逆に松岡は、西和田に「海外経験が豊富なら壁はなかったのでは」と問いかけた。西和田はブラジル駐在の経験こそあったが、「ゼロからのグローバル展開は初めて。特にシンガポールの立ち上げ、米国での初期の現地人採用には苦戦しました。その経験も踏まえて、現地の超優秀人材採用にはM&Aがもっとも効くと考えるようになりました」と率直に語った。
松岡は「自信は結果から生まれます。『できる』と思って挑むのか、『できない』と思って挑むのかで大きく変わる。アスエネが『できる』と思って取り組めば、一気に浸透するはずです」とエールを送った。
さらに、日本企業への思いをこう語り、会場を沸かせた。
「海外に行くたび、日本がどう見られているかを痛感し、悔しくてたまりません。このままでは日本は世界に置いていかれる。でも、それを変えられるのは“挑戦する人”です。リスクと向き合い、『できる』という思いとリーダーシップで心の炎を燃やせば道は開ける。そういう方々を、私は応援していきたいです」
開示は投資家のためだけでなく、経営にも活用を
行政からは、経済産業省GXグループ環境政策課課長の中原廣道が登壇。「我が国のGX政策について」と題して講演を行った。
中原によれば、日本のGX政策は2022年から議論が本格化し、23年にGX推進法が制定された。その取り組みを推進するための施策のひとつが「成長志向型カーボンプライシング」の導入だという。
「カーボンプライシングと言いますと、どうしても負担的な側面が想起されますが、この構想は、同時に投資の促進を進めていこうという取り組みです」
24年に発行を開始した「GX経済移行債」も投資を後押しする。10年間で20兆円規模の先行投資を支援し、官民合わせて150兆円の投資を呼び起こすという。
さらに中原は、「排出量取引制度(GX-ETS)」について紹介。23年から約700社が参加して試行的な取り組みを開始したが、26年度に排出量取引を制度化するという。
「対象の企業に排出量の割り当てを行い、実際の排出量と比べて仮に不足があれば、排出量の枠を取引を通じて調達する。逆に自社の脱炭素が大きく進んで排出量の枠に余剰ができれば売ることができるので、より先行的に取り組む企業にとってメリットがあると考えています」
対象となる事業者は、CO2の直接排出量が10万t以上の事業者だという。最後に中原はGX政策について「脱炭素と経済成長を両立させるための取り組みであり、企業の積極的な脱炭素投資を後押ししたいです」と強調した。
アカデミアからは、東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村ゆかりが登壇。「サステナビリティ開示をめぐる国内外の最新動向」をテーマに講演を行った。
高村はまず、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定を進める日本版の開示基準について解説。今年3月に正式発表されたこの基準について「企業間の比較が可能で、国際的な整合性を備えた質の高いものであることが重要」と指摘した。
さらに、求められる情報開示について具体例を挙げた。
「例えば『企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスクおよび機会の情報開示』が求められています。これは国際基準を踏襲しており、短・中・長期の時間軸で企業のキャッシュフローや資金調達への影響を定義しています」
また、SSBJとTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の比較にも言及。
「SSBJでは『プロセス』が重要なキーワードです。たとえばリスク管理では、シナリオ分析を活用しているかどうかが問われます。リスクや機会の識別・評価のプロセスを明確に開示することが求められています」と強調した。
最後に高村は、開示に取り組む企業へのアドバイスとしてこう呼びかけた。
「サステナビリティ開示は投資家のためだけでなく、企業経営に中長期的な視点を取り込む手段でもあります。カーボンニュートラルやGXに向けた政策動向に対応できる経営体制の強化に、ぜひこの取り組みを生かしてください」
脱炭素に取り組む先進企業の一社として登壇したのは、リコーコーポレート執行役員ESG・リスクマネジメント担当ESG戦略部部長の鈴木美佳子。「事業成長を後押しするESG」と題し、同社の取り組みを紹介した。
リコーでは、いわゆる非財務指標を「将来財務」と呼び、早くから重視してきたという。
「将来財務は、3〜5年後、あるいは10年後の財務に影響を与えるような活動と位置づけています。これにもKPIを設定し、ESG目標として組み込んでいます。現在の中期経営計画では16のESG目標を掲げています」
同社ではESG議会を経営会議と同等に位置づけ、決裁権を持たせるなど、ESGを経営の中心に据えている。また販売会社では620名のSDGs人材を擁し、そのなかから選抜された人材は他社にもサービスを提供しているという。
「SDGsにどこから手をつければいいかわからないお客様に入り込み、伴走しながら、場合によっては脱炭素までつなげていくような提案を行っています」
世界情勢の変化などによりESGのルールは不透明な部分もあるが、鈴木はこう語った。
「企業価値向上と持続可能な社会づくりのための活動を、ぶれずに進めていきたいと思っています」
トランプがどのような政策をとろうと、世界の脱炭素への趨勢は変わらない。「ASUENE SUSTAINABILITY SUMMIT 2025」では、そのことが改めて確認された。一社一社、あるいは一人ひとりができることを愚直に取り組んでいく。それを継続できれば、やがて日本が世界をリードするに違いない。



