宇宙

2025.08.10 16:00

NASA予算削減はチャンス? 火星探査車の未踏領域調査が可能になるかもしれない

NASA火星探査車パーシビアランスがジェゼロクレーター内のスリーフォークスと呼ばれる領域のサンプル配置場所に投下したサンプルチューブ10本のうちの1本(中央やや右下)を見下ろす角度で撮影した自撮り画像。2023年1月20日に撮影(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

NASA火星探査車パーシビアランスがジェゼロクレーター内のスリーフォークスと呼ばれる領域のサンプル配置場所に投下したサンプルチューブ10本のうちの1本(中央やや右下)を見下ろす角度で撮影した自撮り画像。2023年1月20日に撮影(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

アイスランドは、宇宙生物学者にとって夢のような場所だ。活火山地形、玄武岩平原、溶岩トンネルが数多く見られ、NASAがこれらを火星に見立てた訓練や試験を何度も実施している。だが、首都レイキャビクで7月に開かれた欧州宇宙生物学学会(EAI)の隔年例会「BEACON 25」では、出席者の大半が本物の火星サンプルを地球に持ち帰ることを強く求めていた。

NASAの火星探査車パーシビアランスは現在、火星の赤道のすぐ北の台地にあるジェゼロクレーターの縁の上に位置している。パーシビアランスがこれまでに採取した地下サンプルは28個で、これらを回収して地球に持ち帰るサンプルリターン計画が実施されるのを待っている状態だ。だが、サンプルリターンは当分実施されそうもないようだ。

それでも、火星サンプルリターンの予算削減に目を向けることで骨抜きにされるのはごめんだと考えている惑星科学者が少なくとも1人いる。たとえ地球へのサンプル回収に数十年の遅れが生じても、パーシビアランスに搭載の放射性同位体熱電気転換器(RTG)には寿命が十分に残っているため、ジェゼロクレーターの縁を越えて探査するためにこの期間を利用できる可能性があるからだ。

レイキャビクで取材に応じた米ブラウン大学の惑星科学者のアドマス・バランティナスによると、パーシビアランスは採取したサンプルをクレーターの底面に投下してきたが、今やそれより多くのクレーター縁のサンプルが保存格納庫に入っている。だが、サンプルリターンが行われる際には、クレーターの底面に戻らなくてはならなくなる。底面は平坦で強風も吹かないため、サンプル回収機が着陸するのに適した場所だからだという。

従って、ちょっとした偶然の幸運かもしれないものの結果として、サンプルリターンが無期限延期になるならば、パーシビアランスはジェゼロクレーターの縁を越えて自由に動き回れるわけだ。

クレーター縁の向こうに進む理由は何だろうか。

バランティナスによると、クレーター縁の向こうにあるニリ高原(Nili Planum)と呼ばれる平坦地形には、火山性鉱物が豊富にある。さらに、クレーター縁を越えて30~50km南に進むと、大シルチス台地の北東部の領域に、熱水活動で形成された可能性のある鉱物が多数存在しているという。すなわち、クレーター縁を越えて南進すれば、生命生存可能な環境があった可能性がさらに高い場所で、約41億年前に形成された可能性のある岩石を採取できると、バランティナスは説明する。

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翻訳=河原稔

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