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2025.08.28 11:00

ブランド価値をデータで証明する——NECが開発した新たな会計アプローチとは

「ブランディングって、結局企業価値にどう貢献してるの?」——多くの企業でブランディング担当者が直面するこの問いに、NECが独自のアプローチで答えを出そうとしている。 

M&A査定で使われる会計手法を応用し、ブランドによる将来期待収益を算出することでブランドの価値を証明しようという革新的な取り組みだ。その仕組みづくりをリードしてきたのが、同社経営企画・サステナビリティ推進部門 ブランドエクイティマネジメント室の福嶌優斗だ。

Brand Equity Management(BEM)が目指す“意味あるブランディング活動”とはどのようなものなのか、その実現への道筋を聞いた。


管理会計からブランディングへ——価格決定力向上への挑戦

NECグループにブランドという名前がついた組織ができたのは2022年。福嶌は、「NECブランドを強くしていこう」というミッションを掲げる新部署へ、社内公募制度を利用して異動することを決めた。それまで担当してきたのは、事業部での管理会計。社内転職とも言えるキャリアチェンジを決めた背景には、事業計画に携わってきたからこその課題感があったという。

「事業部にいたときは顧客に価値を感じてもらい、利益を上げるためにどうするかを全員が考えていました。『原価をいかに抑えて良いものを提供できるか』『どのように価値を感じてもらい売価に転換するか』と議論していたあるとき、ふと、NEC自体のブランド価値が上がれば、商品やサービスの価格をより感じてもらえるようになるのではないかと思ったんです。例えばAppleの商品は、いくら高くてもAppleだから買いたい、というお客様が世界中にいると思います。BtoBとBtoCで異なるとはいえ、本質は同じなのではないか。新しい部署が立ち上がったタイミングも重なり、さらに世界に誇るNECグループのブランド力を高めていきたいと、異動を決めました」 

テレビCMや動画、Webサイト制作など、ブランド向上に向けて次々とチャレンジしていくなか、ある社内の声に気づく。「ブランドは企業価値向上にどう貢献しているのか」という疑問だ。Webサイトをつくることが何につながるのか?と素朴な質問を投げかけられることもあった。ならば、「どんな意味があるのかを、経営陣を含めた全社員が分かる言語で証明できるようにしたい」——そう、福嶌は考えるようになった。ブランドエクイティマネジメント(BEM)室の立ち上がりと同時に再び異動を決め、ブランドの価値を金額というビジネスの世界における共通言語で表す取り組みが始まった。

「BEM室は経営企画部門の中にあり、『ブランドが大事』という共通認識は社内にありました。でも、技術や顧客基盤と同じような『経営資産』として捉えられていたかといえば、まだまだそうではなかった。BEMの存在意義は、『ブランドは経営資産であり、現在地を把握し・適切に管理し高めていくことが企業価値につながる』ということを証明し、考え方を浸透させていくことだと考えました」

「ブランドは民意」であり相手がどう思うかだと考えていると福嶌はいう。NECグループについてステークホルダーがどう思っているかを知らない限りは、ブランドを見える化することはできない。そこで、ブランドの金銭価値の換算と並行して、体験価値の見える化、つまり定量・定性それぞれのデータ収集・分析に向けたサーベイを実施し、それらのデータを定量化する取り組みも実施している。

「我々の実施した調査結果によるとNECグループはBtoCからBtoB領域へとビジネスが変容したこともあり、年代が下がるにつれて認知度は下がっていき、特に若い世代や学生からは認知されなくなっています。ですが、社内の一部では、過去からNECグループの印象のままで、認知度は変わらないはずだと思っている人もいます。ブランドという無形資産は、放置していては価値をどんどん失っていくもの。

だからこそ、しっかり投資して育てていく必要があります。ビジネスの在り方がどう変わっていこうとも、若年層にリーチするブランディング活動をし続けていれば、現状は違ったかもしれません。ブランドに投資する意義をしっかり伝えるために、共通言語である数字で示していくことがいかに重要かを改めて実感しました」

会計手法PPAでブランドの資産価値を見える化

BEMが追求するのは、「ブランドが企業価値に貢献していることの証明」「ブランド資産価値の他社比相対評価」「価値を向上させるための“意味ある”ブランディングの方向性提示と効果測定」の3点だ。経営戦略とブランド戦略を連携させ、財務観点から事業貢献につながっているかを検証できるような仕組みをつくる。そのために活用したのが、企業価値評価の方法のひとつであるPPA(Purchase Price Allocation)という会計アプローチだった。これは企業買収時に使われる査定手法で、企業価値を有形、無形含むさまざまな資産に分解し、各資産の価値を算出するというものだ。

「『NECグループを自分たちで買収する』と仮定したらどれくらいの金銭価値になるのか、という考え方でNECの各資産価値を算出しました。まず企業価値全体を算出し、そこから一定の仮定のもとで算出しやすい人的資産、技術資産、顧客関係資本などを除いていき、残った部分からIT業界における一般的な比率を用いて、ブランドによる期待収益、つまりブランドの資産価値といえるものを算出したのです」

重視したのは、すべて公開財務データを使用したホワイトボックス型で算出することだ。

「外部のブランドランキングでは、なぜその金額になったのか自分たちで説明することが難しいという課題感がありました。でも自社で算出すれば、なぜこの数字になったのか明確に説明でき、改善施策の検討にも活かすことができます」

8つの要素で戦略の幅を広げるBrand Mass Index

しかし、金額だけでは次のアクションまで見えるとは言えない。そこで同じく福嶌らが開発したのが「Brand Mass Index(BMI)」という独自指標だ。 

「『認知度で〇〇社に負けているから、認知度が〇%だから、認知度を上げることを目的に施策を実施し、〇〇というKPIを目指します』といった単一指標で判断していることが多いと思っています。でもBMIでは、企業価値をブランド価値に落とし込み、稼ぐ力と期待醸成の2項目それぞれを8つの要素で総合的にその企業のブランドの現在地をスコア化しています。

NECグループにおける8つの要素としては、期待醸成に関連する要素として『親密度』『ブランド印象』『推奨度』『社会価値創造』、稼ぐ力に関連する要素として『事業認知・理解度』『協業意向』『Value for Money』『購入意向』を定義しています。単一指標ではなく総合スコア化することで、どの指標を向上させるかの選択肢が広がり、また今までだとその活動が何につながっているのかと問われていたような施策であっても、『〇〇指標につながっている、それはつまり企業価値につながっているといえる』という戦略の選択肢と効果測定の選択肢を大幅に広げることができます。

認知度では他社に劣っていたとしても、実は親密度を上げたほうが自社にとって効果的だったり、社会価値創造では各社とほぼ差がないので、ここで一歩抜け出せば大きなアドバンテージになる、といった議論ができるようになったのです」

NEC経営企画・サステナビリティ推進部門 ブランドエクイティマネジメント室 福嶌優斗
NEC経営企画・サステナビリティ推進部門 ブランドエクイティマネジメント室 福嶌優斗

さらに、BMIのもうひとつの価値は、ブランディング活動のPDCAサイクルを回せることだろう。

「スコアという見える化された共通指標を持つことで、『今期は社会価値創造を0.5ポイント上げよう』といった具体的な目標設定ができ、施策の効果を定量的に測定できます。

PPAによってブランドという目に見えないものを金銭価値として算出すること、企業ブランド調査の結果の体験価値をスコア化し効果測定する といったブランド資産の見える化と同時に、『ブランドは経営資産である』という文化を創っていく必要があると思っています。

社内のイントラネットでの公開や、グループ社員数万人に向けた研修などさまざまな施策を実施していますが、その中で伝え方についても工夫しています。例えば、我々はブランド資産価値をさらにブレイクダウンし『一人当たりのブランド創出価値』として公開することで、社員のみなさんに『NECグループブランドエクイティを身近なものに感じてもらい、自分事化してもらおう』と考えています。社員一人ひとりが自身がNECのブランドを創っているということを数字で実感してもらい、各自の立場でできることを考えるきっかけにしてほしい。一株当たり利益(EPS)のように、ブランドの生産性を測る新たな指標として位置づけていきたいと考えています。

実際、データを公開したところ、社内ポータルサイトに『NECグループブランドに重みを感じた』『どうやったら価値向上できるか考えたい』『自社の金額だけではなんともわからなかったが、他社と比較するともっと向上させたいと感じた』といった声が寄せられたんです。社内におけるブランド活動に対する意識が『ブランドへの投資に意味があるの?』から『ブランド価値を向上させるには具体的に何をするの?』に変わりつつあることは、大きな前進だったと感じています」

日本企業全体の競争力向上を目指して 

NECによるBEMの取り組みで特筆すべきは、これを自社の競争優位としてクローズドにするのではなく、むしろオープンに展開しようとしていることだ。

「手法を隠す気はまったくありません。BMIという考え方が広がり、最終的にはさまざまな企業の統合報告書の一項目としてBrand Mass Indexが載るような未来がくればいいなと思っています。

現在、多くの日本企業では、データドリブンが進みつつも、実際には経営層の意向や単純な認知度などの単一指標でブランディングが決まっている現状もまだまだあると思っています。企業ブランドに対する社会の声をまず見える化し、それに基づいて戦略を立てる——本当の意味でのデータドリブン・ブランディングが広まれば、日本企業全体の競争力向上につながるのではないでしょうか」 

彼らの取り組みが切り開く可能性は大きい。従来のブランディングが往々にして属人的で、感覚的な判断に頼りがちだったのに対し、BEMは客観的なデータに基づく意思決定を可能にする。

「人が減っていく時代だからこそ、誰がどう見ても一緒に考えられる共通言語が必要です。まだまだ今の時代で一番の共通言語は数字や金額だと考えていて、まずはそれらの言語でチャレンジしています。ブランドを資産として適切に把握・管理し、投資していく——そんな文化が日本企業に根付いていけば、と願っています」

会計とブランディングという一見異なる分野の融合から生まれたNECの挑戦は、企業価値創出の新たな可能性を示している。数値化の先にある「意味あるブランディング」の実現に向けて、この取り組みがどのような成果を生み出していくのか注目したい。

日本電気株式会社
https://jpn.nec.com/

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ふくしま・ゆうと◎経営企画・サステナビリティ推進部門 ブランドエクイティマネジメント室 主任。2016年NEC入社。事業部門の中計策定、予算管理など管理会計に従事。2022年からコーポレートブランディング部にて、企業広告、若年層向けブランディングなどの企画・ディレクション業務を経験。これらバックグラウンドをもとに、ブランドによる期待収益の算出やブランド指標(Brand Mass Index)の開発、ブランド調査活動に従事。


撮影協力:Glass Rock https://www.glass-rock.com/
東京・虎ノ門ヒルズ グラスロック4階/地下1階に所在する、企業・行政・NPOなど多様なセクターの連携と共創により社会課題の解決を目指す会員制拠点。

Promoted by NEC | text by Rumi Tanaka | photographs by Tomohisa Kinoshita | edited by Miki Chigira(HAGAZUSSA)