かつては、常に成功を収めるのは最も規模の大きな企業、と相場が決まっていた。だが今は、その座を占めるのは最も適応力が高い企業だ。
ニッチな分野に取り組む事業者にとっては、歴史的な好機が訪れているといえるだろう。つまり、規模が大きいがゆえに動きが鈍い、既存企業の牙城を崩して追い抜く好機だ。
新たなテクノロジーや、機敏に対応できる組織構造、顧みられていない市場に対する詳細な知識をよりどころとして、より小規模な企業が、かつては手が届くはずがないと思われていた分野で競争に勝ち、シェアを拡大するケースが増えている。
こうしたシフトは、机上の空論ではなく、リアルタイム起きている現象だ。さまざまなセクターにおいて、スタートアップやニッチ企業が、はるかに規模が大きな企業を相手に、互角の戦いを挑んでいる。だが実際、どうやってそんなことを実現しているのだろうか?
イノベーションの採用スピードで優位に立つ小規模企業
小規模な企業には、ある大きな戦略上のアドバンテージがある。それは、規模によって生まれる制約から自由である点だ。ニッチ企業は、より大きな組織が持つ、官僚主義の足かせとは無縁だ。よりスピード感を持ってさまざまな試みを行い、新しく生まれた技術をより早く採用し、進化し続ける市場のニーズに合わせて、リアルタイムで方向を転換できる。
その好例が、男性向けのパーソナルケアブランド、Dr. Squatch(ドクター・スクワッチ)だ。創業者のジャック・ハルドラップが、自らが住んでいたアパートメントで立ち上げたこのブランドは、それまで顧みられていなかった領域に目をつけた。男性向けの自然志向のボディケア製品を、本物志向であることをアピールしつつ、ユーモラスで無骨なブランディング戦略で売り出す、というものだ。
デジタルメディアを駆使した巧みなストーリー展開と、機敏な製品開発手法により、ドクター・スクワッチは、ニッチ分野の製品を手がける企業から、1億ドル(約150億円)規模のブランドへと成長した。これを見て、ユニリーバやP&Gといった既存の大企業が、大慌てでブランドの再構築に乗り出している(ユニリーバは2025年6月、ドクター・スクワッチの買収を発表した)。
ビジネスで突き当たる最大級の難問の多くを解決できる
新しい事業を次々と立ち上げるシリアル・アントレプレナー(連続起業家)のカシム・アスラムは、ニッチ企業のメリットについて以下のように綴っている。「事業をニッチ分野に絞り込めば、ビジネスで突き当たる最大級の難問の多くを解決できる。顧客のプロフィルを正確に理解し、提供する製品やサービスを具体的に定義し、事業運営を合理化できるだろう。(そして何より重要なのは、)必要な分野に集中し、余計な要素を容赦なく排除することにつながる点だ」
「事業をニッチ化するメリットは、他にもある。マーケティングにおいては、ターゲットを非常に正確に絞り込むことが可能になり、競争が緩和され(競争相手がいない場合さえある)、製品の質を大幅に高められる。利幅も大きく拡大し、市場の第一人者としての地位をより速く確立できる。より明確な地位向上のチャンスを得られるはずだ」



