コードの代わりに創造性を──Gigglesの事例
Gigglesは、AIによる根本的な変化の縮図といえる。同社のジンは、共同創業者エドウィン・ワン、音楽アーティストのマシュー・ハーショフとともに、ユーザーがゲームのようなやり取りを通じてデジタル表現を競うことで、報酬が与えられるシステムを構築した。ゲーム的要素は、AI生成動画、コレクティブルコンテンツ、日替わりクエストなどさまざまだ。
このストーリーテリング重視のプラットフォームは、伝統的なコーディングチームなしに構築されており、Z世代が率いる多くのアプリに共通する新たな開発モデルを体現している。
ロイターによるとジンは、以前に立ち上げた企業Mediababyを380万ドル(約6億円)で売却していた。彼は、そのときの経験から「プラットフォームは、硬直した仕組みよりもユーザーの表現と柔軟な関わりを優先するときにこそ成長する」という信念を持つようになったと語っている。
そしてGigglesにおいてその信念は、プロンプトが駆動する創造性、ゲーム化されたフィードバックループ、さらにコミュニティ主導の交流を基盤としたプロダクトとして具現化された。ワンによると、Gigglesは自社のプラットフォームについて、TikTokの代替としてだけでなく、従来型SNSからますます距離を置きつつある世代に向けたものと位置づけているという。さらにハーショフはこう述べている。「クリエイターは、写真や動画を投稿するだけにとどまらない。ゲームをバイブコーディングしたり、アプリを開発したり、仮想世界全体を作り上げてGigglesに投稿することができる」。
AIファーストなスタートアップはスケールできるのか
AIネイティブのスタートアップに勢いがある一方で、ジンのような創業者たちが直面する厳しい現実もある。そのカルチャーは世間の注目を集めるきっかけになるものの、それを持続させるにはインフラが必要だという点だ。Gigglesのように、バイラル性やクリエイターの熱量によって成長してきたプラットフォームも、最終的にはあらゆる野心的企業が直面する根本的な課題に直面する。それは、そのような企業が、セキュリティを保ち、信頼性を維持し、再現性のある形で、そして技術的な規律をもって、スケールしていけるのかというものだ。
現時点において、Gigglesはもはや例外的な存在ではなく、AIがデジタルの起業をどう変革しているかを示すリトマス試験紙となっている。これは、技術的な専門知識ではなく創造性が製品開発を牽引することで何が起こるのかを示す、生きた実験でもある。しかし、プロンプトに駆動されたチームが、計画的・継続的に運営できる仕組みを備えたビジネス・エコシステムに進化するためには、単なる「バイブス」以上のものが必要だ。ここで求められるのは、システムであり、安全策であり、強固なエンジニアリングだ。


