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2025.08.09 08:00

朝9時から夜9時まで週6日働く「996勤務」、いつかあなたの職場にも?

Shutterstock.com

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最近の報道によれば、AIスタートアップ企業が、生産性向上を名目に過労を美化し、「AI競争に打ち勝つ」ために「996勤務」を導入し始めている。先月、Inc.でテケンドラ・パルマーはこう書いた。「中国企業に先んじるため、一部のAIスタートアップは、同国の過酷な勤務制度である『996勤務』を採用し始めている」

だが、未来の労働で必要とされるのは「もっと働くことではなく、より少なく働く」ことだろうと彼は指摘する。また、パルマーはこの996勤務が生産性を高めるどころか、逆に損なう可能性があるとも述べている。

「996勤務」とは何か

一部のAIスタートアップは、職場を暗黒時代へと逆戻りさせようとしており、中国では一般的とされる996勤務を導入し始めている。この制度では、従業員は月曜から土曜までの週6日、午前9時から午後9時まで働く。アジアの企業は、従業員の過重労働で知られており、慢性的な職業性ストレスが管理されないまま進行し、やがて燃え尽き症候群に至ることも多い。これが放置されれば、過労死に繋がることもある。

専門家らは、午前9時から午後9時までの週6日勤務という文化を、企業による虐待だと非難している。しかし、一部のトップ経営者たちも、極度に長時間働いている。報じられたところによれば、グーグルのマリッサ・メイヤーは、週に最大で130時間働いたことがある。Appleのティム・クックは午前4時30分にはメールを送信し始める。そして、テスラの創業者兼CEOのイーロン・マスクは、週に120時間働くことで知られている。

一部の経営幹部は、自身の996勤務に従業員も追随することを期待している。2022年、マスクは、彼が企業による奴隷制度、労働虐待、そして燃え尽き症候群を助長しているとして世間から非難を浴びた。中国のテスラ従業員が午前3時まで熱心に働くことを称賛しつつ、米国人については「働こうとすらしていない」と発言した。

同年、マスクは社内のリモートワーク廃止を宣言し、7000人いた従業員のほぼ半数を解雇した。2022年に私が行った、Delivering HappinessのCEOであり、ベストセラー『Beyond Happiness: How Authentic Leaders Prioritize Purpose for Growth and Impact』の著者でもあるジェン・リムとのインタビューで、マスクが従業員を人間ではなく、企業活動によって巻き添えを食うだけの存在として扱っており、基本的な人間の尊厳すら忘れていると彼女は非難していた。

私は、組織心理学者で、Betterworksの戦略ディレクターも務めるケイトリン・コリンズにも話を聞いた。彼女は、極端な勤務体系が職場の生産性を損なうと主張する。「午前9時から午後9時まで、週6日働けばイノベーションが生まれるという発想は、完全な誤解である」とコリンズは語る。「研究は一貫して、極端な勤務時間が生産性を高めるどころか、逆にそれを蝕むことを示している。過労が続けば、燃え尽き、認知的疲労、業務への無関心が起こり、AI企業が革新に必要とする創造性や集中力が直に損なわれる」

多くの研究が、机に長く座っている時間が多ければ多いほど、成果も上がるとは限らないと示している。例えば、英国の研究では、1日11時間以上働いている従業員は、心臓発作を起こす確率が67%も高まることが明らかにされている。また、週に54時間以上働く従業員は、過労死に至るリスクが高まる。

996勤務という集団妄想

より多くの企業が996勤務という集団妄想に染まりつつある今、米国企業はウェルネスの定義を見直すべきだ。これは、従業員が精神的、身体的健康を犠牲にしてでも働くことが名誉であるという集団的な錯覚を打ち壊すことから始まる。

コリンズは、ワークライフバランスは決して「特典」などではなく、ビジネスに不可欠な要素であると述べる。「従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できるのは、柔軟性があり、精神的余裕があり、仕事は自分を犠牲にするものではなく、自分の生活に組み込まれているものだと感じられるときである」

彼女は続けて、「Z世代や若い世代は、燃え尽きを名誉とする文化をすでに拒絶しており、旧態依然とした働き方に固執する企業は、最も有能な人材を失うリスクを抱えている」と警告している。

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翻訳=江津拓哉

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