電脳世界にも魔物が棲んでいる
「霊感インテグレーション」新名智
ミステリとホラーの二刀流では、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」出身の新名智の活躍も目覚ましい。ベンチャー企業が集積する通称「五反田バレー」にあるIT会社ピーエム・ソリューションズ。この弱小企業に案件として持ち込まれる怪異現象の数々を描く「霊感インテグレーション」(新潮社刊)は、呪われた家系に生まれ、世を拗ねるヒロインが、社主と思しき人物のスカウトを受けるところから始まる。
インターネットが不可欠の現代だが、電脳世界には魔物が棲んでいるのかと思うほど、トラブルは無限だ。幽霊から届くプッシュ通知(表題作)やユーザーの体調を損なうアプリ(邪眼コントリビューター)といったオカルト現象に、社名通りのソルーション(=解決)をもたらすため、社員らは奔走する。ウェブ社会の闇に踏み込む今日性に加え、小さな謎が連鎖し、大きな謎へと向かう連作集ならではの大技も、見事に決まっている。
「更級忍法帖」荒山徹
次は荒山徹の「更級忍法帖」(早川書房刊)だが、「忍法帖?」と怪訝に思われる向きもあろう。だが、山田風太郎の忍法帖を体験済みの読者なら、ニヤリとしていただけるのではないか。元祖「山風」の自由奔放さを継承する作者の筆は、天下泰平が訪れてまもない徳川時代初期の史実を大胆に膨らませる。
奸計にかかりお家断絶となった美濃高須藩の女たちは、愛読する古典書を措き、わが身を捨てて習得した妖術で、憎き仇への復讐を誓う。天才剣士を巻き込み、朝鮮渡来の妖術が飛び交うデスバトルの意想外の面白さも然ることながら、女たちの間に育まれる連帯関係が、読者の心を捉えずにはおかない。
人と物語の関わりについての考察が、登場人物それぞれの行動規範となっていくあたりも面白い。忍法帖とオカルトの親和性を改めて証明するとともに、先人が切り開いた世界をアップデートしてみせる新たな忍法帖の登場だ。


