生成AI時代になり、イノベーション力は重要性がさらに高まるだろう。イノベーターの資質とは何か。どうすれば芽生え、育つのだろうか──。
「内なる声に耳を傾け、自分の興味を粘り強く追い続けよう」
世界中の若者に向けて、こう熱く呼びかけるのは、米イノベーション教育のパイオニア、トニー・ワグナーだ。彼は、『未来のイノベーターはどう育つのか──子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(藤原朝子・訳、英治出版)の著者でもある。イノベーターの資質を育むベストな方法とは何か。ワグナーに話を聞いた。
──原著出版から13年。テクノロジーの進歩や社会の変化が加速するなか、イノベーターの重要性はどう変化しましたか。
トニー・ワグナー(以下、ワグナー):イノベーション力の重要性が増している。今や人間にしかできない何かを身につけ、提供できない限り、仕事で人工知能(AI)と競い合う時代になったからだ。
その結果、人間としての競争優位性は何かという、差し迫った問題が浮上している。大学で学位を取っても、基本的な仕事にすら就けない若者もいる。だからこそ、イノベーターの重要性が、これまでになく高まっている。現代のイノベーターには、新種の「リテラシー」とでもいうべき、AIと協働するための新スキルが必要だ。
──『未来のイノベーターはどう育つのか』のなかで、前作『The Global Achievement Gap』(未邦訳、仮題『世界の学力格差』)に触れていますね。『世界の学力格差』で提唱した「7つのサバイバル術」は、イノベーターの資質としては不十分だと。
ワグナー:スキルは非常に重要だが、気質も重視したい。忍耐力や粘り強さ、共感力、他者に耳を傾けて理解する力だ。
また、思慮深くリスクを取ることも大切だが、現代の若者には難しい。今時の親は、競争が激化する世界を前に、一流大学進学という競争優位性を子どもに与えたいと考える。その結果、若者は、ミスを犯さずに好成績を取って完璧な履歴書を書き上げようと励む。リスク回避型の人生だ。
一方、イノベーションのモットーは、一にも二にも「失敗しろ!」だ。現代の若者が想像しうる最悪の失敗──それがイノベーションの本質だ。試行錯誤の精神は、失敗を罰する現在の教育制度と相いれない。
好奇心も大切だ。私が出会ったイノベーターたちは、専門分野だけでなく、世界全体に対し、旺盛な好奇心をもっていた。好奇心も忍耐力も「筋肉」と同じだ。時間をかけて鍛え、発達させる必要がある。重要なのは、若者が好奇心を育て自分の興味を追求する機会を与えることだ。夢中になることで情熱が生まれ、情熱に突き動かされた「遊び」が粘り強さや目的意識に変わる。人間の「進化」だ。
──若いイノベーターや彼らの親、教師など、150人以上に取材したそうですね。
ワグナー:本書では、個性豊かな6人の若きイノベーターを取り上げた。
まず、米アップルで初代iPhoneのプロダクトマネジャーを務めた米国人男性の話をしよう。学校嫌いの彼は高校2年生のころ、全単位を取得して1年早く退学。スタンフォード大学も退学し、アップルに入社。型破りな道だが、大成功を収めた。
次は、マサチューセッツ工科大学(MIT)を出たアジア系米国人の女性の例だ。彼女はアフリカの小規模農家に着目。農家の負担を減らすべく、トウモロコシの実を芯から外すコーンシェラー付きの自転車を開発し、タンザニアで会社を立ち上げた。上記2件は、いずれもクリエイティブな問題解決の好例だ。



