キャリア・教育

2025.08.20 13:30

イノベーターへの道は「好奇心」と「忍耐力」から始まる

トニー・ワグナー|ハーバード大学テクノロジー起業センター初代フェロー(イラストレーション=オリアナ・フェンウィック)Courtesy of Tony Wagner

「創造性の3要素」とは

──イノベーションに不可欠な「創造性の3要素」(専門性、クリエイティブな思考力、モチベーション)と、遊びや探求といった学校のカルチャーとの関係を可視化した図が第2章に載っていますね。

advertisement

ワグナー:従来の学習は学問的な知識に重点を置いている。いわゆる「専門性」の一環だが、専門性にはスキルも含まれる。知識だけでは足りない。知識をいかに応用するかが大切だ。知識はクリエイティブな問題解決能力とは違う。クリエイティブな思考力とは、新しい問題を解決すべく、専門知識を新たな方法で応用することだ。

粘り強さや内的インセンティブ、内的モチベーションも必要だ。お金や名声に突き動かされていると、失敗する。イノベーションは、ひと筋縄ではいかないからだ。専門知識やクリエイティブな思考力があっても、忍耐力がなければ、続かない。

コラボレーションも不可欠だ。米アップルのジョナサン・アイブ(元最高デザイン責任者)やティム・クック(現最高経営責任者)がいなかったら、スティーブ・ジョブズは偉業を成し遂げられなかった。

advertisement

──分野横断的な問題解決へのアプローチや「遊び」も重要ですよね。

ワグナー:科目ごとに分断されサイロ化された学校教育という制約の下では、問題など解決できない。若者は、複数の分野から問題を眺める習慣を身につけるべきだ。

自らを奮い立たせるエンパワーメントも重要だ。「自分には、変化をもたらす力がある」という自己効力感だ。エンパワーメントなしに、困難な問題に挑むための勇気や自信をもつことはできない。遊びも重要だ。内的モチベーションは遊びから始まる。遊びと好奇心も密接に絡み合っている。遊ぶ時間がなければ、好奇心はなえる。

学校のカルチャーが、専門性やクリエイティブな思考力、モチベーションという創造性の3要素に影響を与える。大切なのは、「学びたい」という、若者の内的モチベーションを育むことだ。成績よりも、何を習得したかを重視するカルチャーや価値観への大胆な転換が必要だ。

──生成AI時代に必要なイノベーターの資質とは?

ワグナー:質問力だ。生成AIに自分の希望を的確に伝えるスキルだが、従来の教育は答えを重視し、質問を歓迎しない。AI時代の成功に必要な教育とは真逆だ。

──10代の若者が自身のなかにイノベーターの資質を見つけ、開花させるには?

ワグナー:子どもたちの興味を理解して支え、高パフォーマンスへと導く親や教師が必要だ。書籍の最後に、「若きイノベーターの君へ」という手紙を載せた。

イノベーターへの道は好奇心と忍耐力から始まる。どのような道が待ち受けていようと、自分の関心を粘り強く追い続けることが大切だ。好奇心や忍耐力という「筋肉」を鍛えよう。スマホやSNSに心を乱されることなく、内なる声に耳を傾け、興味の赴くままに行動しよう。

──ジョブズは、こう言いました。「自分の心と直感に従う勇気をもとう。それ以外は二の次だ」と。

ワグナー:概ね同意するが、10代にとっては、勇気よりも、興味のあるものに注意を払い集中することが先決だ。従順さを捨て、人と同じことをせず、自分らしくあろうとする「静かな勇気」が必要だ。


トニー・ワグナー◎ハーバード大学テクノロジー起業センター初代フェロー。米国のさまざまな学校や財団へのコンサルティングを行っており、ビル&メリンダ・ゲイツ財団シニアアドバイザーも務めた。高校教師、校長、教員養成大学での教授の経験ももつ。

インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事