━━それには大変な勇気が要りますね。
シンハ: 起業家精神とは勇気そのものです。リスクを冒さなければ、何も得られませんよ。
━━常にその「独自の視点」を探していたのですか、それともたまたま遭遇したのですか?
シンハ: ベンチャー投資家として、私は常に「見過ごされた市場」に目を向けてきました。なぜなら、誰もが注目するような華やかな市場は、すでにコンセンサス(共通認識)が形成されてしまっているからです。富の源泉となる「非コンセンサス」な市場とは、人々がまだ注目していなかったり、見過ごしたりしている場所に眠っているのです。
そんな中、私が目をつけたのが「バックアップとリカバリー」の市場でした。驚いたことに、そしてある意味では喜ばしいことに、この市場は20年間も技術革新が止まっていたのです。既存の企業はイノベーションに投資することなく、ただ顧客から利益を吸い上げるだけの状態でした。
しかも、それは巨大な市場です。だからこそ、こう考えました。「もし、最高のチームと最高の技術をこの見過ごされた市場に投入できれば、市場の常識を根底から覆せるに違いない」と。
━━20年間も変わっていなかった理由はどういった点にあったのでしょうか?
シンハ: どのような市場であれ、成功には3つの要素が不可欠です。チーム、テクノロジー、そしてタイミングの3つです。
バックアップとリカバリー市場の原点を振り返ると、その概念が生まれたのは、アプリケーションやコンピュータが社会に不可欠となった時代でした。当時は、人的ミスや自然災害が起きてもシステムを動かし続ける、という運用上の必要性から生まれたものだったのです。
しかし、クラウドの普及、アプリの爆発的な増加、ハードウェアのコモディティ化といった2010年頃の大きな変化の波を前に、市場は大きな転換点を迎えていました。既存のアーキテクチャを、新しい世界に合わせて根本から見直す必要に迫られていたのです。
そして、その新しい世界における最大の脅威は、もはや人的ミスや自然災害ではなく、サイバー攻撃でした。そこで私たちは、こう考えたのです。「バックアップとリカバリーの仕組みを、サイバー攻撃の解決に特化する形で再構築できないだろうか?」と。
2014〜15年当時、まだ誰も「ランサムウェア(データを暗号化し、解除と引き換えに金銭を要求する悪質なソフトウェア)」のことなど考えておらず、その存在すら知られていなかったのですから、これはまさに新しい「独自の視点」でした。
私たちがランサムウェア検出製品の初版や、ゼロトラストの思想に基づくアーキテクチャを開発した当初、世間のサイバーセキュリティへの関心はまだ低いものでした。実際、お客様に製品を提案した際には、「いやいや、うちにサイバーセキュリティの問題なんてないよ」と断られたことを覚えています。
しかしその3年後、ランサムウェアが世界中で猛威を振るい始めると、私たちの製品は市場で唯一の選択肢となっていたのです。


