スマートフォンにおける、次なる「イノベーション」は何だろうか。
それは形あるハードウェアではなく、すでに注目を集める生成AIのようなソフトウェアがもたらす「体験」ではないかと筆者は考えている。
その革新的な体験をユーザーに届けるためのツールとして、広く普及したスマートフォンやパソコンは今もなお最適なデバイスであり続けている。この潮流の中で日本のモバイルアプリ市場はどのように変化し、開発者たちは世界最大のプラットフォームの1つであるアップルのApp Storeにどのような可能性を見出しているのだろうか。国内の主要デベロッパ3社の取材から、モバイルアプリの現在地と未来への展望を探る。
拡大する情報通信市場。生活の中心にあるスマホ
日本のインターネット利用環境は完全にスマートフォン中心へと移行した。総務省が2025年7月に公開した令和7年版「情報通信白書」の集計データによれば、日常で最も頻繁に使うインターネット接続端末として「スマートフォン」を挙げる回答は、20代から70代までの全世代で増加傾向にある。特に20代ではその割合が91.6%に達する。また、同白書はSNS利用の全世代への拡大や、企業のクラウドサービス利用率が過去10年で倍増したことも指摘しており、日本国内のアプリ市場が活況を呈している様子がうかがえる。
この活況は経済指標にも明確に表れている。同じ総務省の情報通信白書の2025年版最新データに目を向けてみると、2023年の情報通信産業の実質GDPは58.1兆円と、前年の56.5兆円から1.6兆円増加した。他の主要産業が横ばいや微増に留まる中、情報通信産業は総務省がデータを公開する2000年以降、一貫して継続的な成長を示している。
この傾向は世界共通だ。モバイル通信事業者の業界団体であるGSMAアソシエーションのレポート「2025年モバイルエコノミー」は、2024年にモバイル技術関連サービスが世界経済にもたらした価値を約6兆5000億ドル(約1000兆円)と試算する。さらに2030年までには約11兆ドル(約1610兆円)規模へと拡大し、世界GDPの約8.4%を占めると予測している。米国の新関税政策など、サプライチェーンへの懸念から市場の不透明感は存在するものの、生成AIなどの新しいユースケース創出が活発なモバイル関連ビジネスは、比較的安定した成長が見込まれる分野と言えるだろう。



