トランプが主張する「風力発電に関する嘘」と正しい科学的知識

2025年7月29日、スコットランドを訪問したトランプ大統領(Photo by Jeff J Mitchell/Getty Images)

2025年7月29日、スコットランドを訪問したトランプ大統領(Photo by Jeff J Mitchell/Getty Images)

トランプ大統領は2025年7月、スコットランドを訪問した際に風力発電を「詐欺」と呼び、以前からおなじみの主張を繰り返した。「海は、あちこちにあるこうした風車によって破壊された。しかも、それらは私のゴルフ場のすぐ目の前にある」と彼は記者団に語った。トランプはまた、「私はそれらを止めようとして訴えられた張本人だ」とも述べている。

彼によると、洋上風力発電はクジラが死ぬ原因となっており、不動産の価値を下げ、コスト高で採算が取れないという。しかし、彼のこの主張は、風力発電に関するすでに何度も否定されてきた俗説の繰り返しだ。風力発電をめぐる科学や開発の判断は、もう少し複雑な要素を含んでいる。

風力発電をめぐる都市伝説と事実、誤情報の歴史

トランプ大統領は、スコットランドのアバディーンシャーにある自身のリゾート近くの風車に対する最初の法的異議の申し立て以来、風力発電について誤解を招く、あるいは事実に反する発言を何十回も行ってきた。大統領という立場から発せられるこうした主張は、その影響力と注目度ゆえにより重く受け止められ、厳しく精査されるが、それらは、風力発電やクリーンエネルギーをめぐる他の誤解や俗説と本質的には変わらない。

最も一般的な誤った主張には、次のようなものが挙げられる。

誤:風力発電の風車はすべての鳥を殺す

米国魚類野生生物局によると、風力発電による鳥の年間死亡数は100万羽未満だ。対照的に、2003年の同局のデータによると、建物との衝突による死亡は年間約6億羽、猫による捕食は年間20億羽以上にのぼる。

誤:風力発電所がクジラを殺している

米国海洋大気庁(NOAA)と米国海洋漁業局(NMFS)は、クジラの漂着死と洋上風力発電を結びつける科学的証拠は存在しないと報告している。クジラの死亡の主な原因は、船との衝突、漁具の絡まり、海水温の上昇に伴う生態系の変化だとされている。

誤:風力発電は最も高価な発電方法だ

陸上風力発電は現在、米国における新規発電手段の中でも最も安価な部類に入る。2023年のレポートによると陸上風力発電のコストは、1メガワット時あたり約33ドル(約4851円。1ドル=147円換算)だ。化石ガス(同45ドル。約6615円)や石炭(同70ドル。約1万290円)よりも低い。

誤:風力発電は不動産価値を下げる

ローレンス・バークレー国立研究所の調査では、風力発電所の近くにある住宅の長期的な価格下落を裏付ける一貫した証拠は確認されなかった。

誤:風車はがんやその他の健康被害を引き起こす

PMC(PubMed Central)に掲載された包括的レビューでは、風車の騒音や振動が深刻な健康被害をもたらすという主張に科学的根拠はないと結論づけられている。

科学者たちやファクトチェック団体は、上記のような誤情報を広く否定している。それでも、同様の根拠のない話はオンラインのフォーラムやソーシャルメディア上で根強く残っている。

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編集=上田裕資

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