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2025.08.14 08:00

犬・猫向け「スマート製品」で売上倍増、世界の愛好家を魅了する中国ペットテック企業

Shutterstock.com

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データによると、世界でペットとして飼われている犬の数は約5億匹、猫の数は約2億2000万匹とされる。この数はほとんどの国の人口を上回っており、今も増加を続けている。中国の起業家エディソン・デンは、この広大な市場を開拓するために、ペットに対する思いやりと最先端のテクノロジーを組み合わせた新たな方法を模索している。

「ペットの飼い主たちを、スマート化されたテック製品で支援することは、ビジネス的にも理にかなっている」とデンは、フォーブス・チャイナに明かした。「このカテゴリーは、高価格帯で研究開発のハードルが高く、プレミアムかつ先進的なブランドを築く上で大きな可能性を秘めている」と指摘した。

ペットへの愛情と起業家精神の芽生え

2024年にフォーブス・チャイナの「30アンダー30」に選出されたデンは、家族とともにペットへの愛情を育んだ。彼の父が創業した深セン拠点のXing Risheng Groupは、ウォルマートやPetSmartといったチェーン向けにペットフードや観賞魚向けの水槽などを供給している。これまでデン自身は、主に犬を中心に十数匹のペットを飼ったことがあり、そんな動物との関わりが起業家としてのビジョンの根本にあると彼は述べている(ちなみにデンは、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、デボンレックス、ペルシャ、秋田犬、ジャイアントプードルを飼ったことがあり、マルチーズがお気に入りだそうだ)。

そして、カリフォルニア大学サンディエゴ校で学士号を、ボストン大学でマーケティングの修士号を取得。その後デンは、「人間とペットの関係を再構築する」新たなツールを生み出すため、起業の道に進んだ。

愛犬の名「スノーボール」を冠した、「PetSnowy」の誕生

その結果生まれたのが、「PetSnowy」だ。彼が2020年にカリフォルニアで暮らしていた際に飼っていた愛犬の名前、「スノーボール」にちなみ名付けた社名という。デンは、その年の後半に故郷の深センに戻り、スマートペット製品を開発すべくハードウェアやエレクトロニクス部門のチームを結成した。彼は同社の会長兼CEOを務めつつ、製品開発やブランド構築においては、フラットかつ協働的な職場環境でチームと共に取り組んでいるという。

PetSnowy初の大ヒットになったのが、「スマート猫用トイレ」のSNOW Smart Litter Boxだ。独自の脱臭システムを備えるこの製品は、抗菌・防カビ性に優れ、掃除をしやすいABS樹脂を採用している。臭いを遮断する密閉機能を備えたゴミ箱が付属している点も特徴だ。また2023年、クラウドファンディングサイト「Indiegogo」において、この猫用トイレはペット関連では史上最高額の約200万ドル(約2億9400万円。1ドル=147円換算)を調達したという。現在は、公式サイトのPetSnowy.comが最大の販売チャネルとなっており、米国、欧州、英国、カナダ、オーストラリア、日本の顧客にダイレクトに発送している。また同社の直近のヒット商品としては、ペット用ドライヤーの「SMILE Smart Pet Dryer Box」が挙げられる。

急成長する売上と今後の展望

PetSnowyの昨年の売上高は前年の約2倍の4000万ドル(約59億円)に達し、その85%が海外市場からのものだった。そしてデンは、ここ最近の関税をめぐる不透明感にもかかわらず、2025年の売上高がさらに倍増すると見込んでいるという。その背景に、特に米国・日本など主要市場における勢いの強さ、中国市場での大幅な拡大がある。さらに、新製品の投入、既存製品のアップグレードも成長を後押しする可能性がある。加えて、人工知能(AI)活用したイノベーションの増強、デジタルマーケティングへの投資拡大、世界的なペットの飼育人口の増加も追い風となるだろう。

父から受け継いだ経営哲学と事業基盤

デンは、これまでのキャリアを振り返り、「緻密な業務管理、品質管理、海外の顧客との強固な関係維持に関する教訓を父から学んだ」と語った。世界の小売業者向けにペット製品を製造してきた父の数十年にわたる経験が、製品のクオリティへのこだわりを彼に植え付けたという。

デンはまた、製造や人材の面でも父のグループの支援を受けている。PetSnowyは、恵州、深セン、ハノイにある工場にアクセス可能で、潮汕、広州にも追加の施設を置いている。彼は今も父のグループ企業の役職に就いているが、大半の時間をPetSnowyに費やしているという。

ファースト・プリンシプル(第一原理思考)と真のイノベーション

同社が、犬と猫に重点を置いた会社であることは、そのロゴにも表れている。PetSnowyのロゴは、猫と犬の手の肉球を模したもので、角に配置された雪の結晶は「Snowy」という名前にちなんだものだ。これらを組み合わせることで、PetSnowyが掲げる会社のバリューである「快適さ、清潔さ、人とペットの調和」を表現しているとデンは説明した。

彼は、父からの学びに加えて、自身のビジネスの根底に「ファースト・プリンシプル(第一原理思考)」と呼ばれるアプローチがあると述べている。古代ギリシャの哲学者アリストテレスにルーツを持つこの手法は、イーロン・マスク、アップル、ダイソンなども取り入れている。デンにとってそれは、「ユーザーの根本的なニーズから出発し、物理的な事実、客観的な論理に基づいて解決策を構築すること」であり、既存の製品に単に機能を追加して「イノベーション」と呼ぶことではないという。「真のイノベーションとは、ユーザーの実際の不満・課題を解決することだ。そのためには、思慮深く独創的なアイデアを用いて、具体的な価値を提供しなくてはならない」と彼は述べている。

AIラボが拓くペットテックの未来

今後の計画としてデンは、昨年社内で立ち上げたAIラボで新たな製品・サービスを生み出すことを目指している。その一例としては、データに基づいて潜在的な健康問題を検知するパーソナライズされたペットの健康モニタリング、ペットの行動パターン認識によって設定を自動調整するAIシステムなどが挙げられる。

母国中国への市場展開も

また、今後の市場の展開としては、母国の中国市場に新たな可能性を見出している。PetSnowyは、これまで海外市場に重点を置いてきたが、その背景には、利益率の高さと新たなテクノロジーへの関心の強さがあったという。しかし、近年は中国のペット支出も急速に伸びており、消費者の嗜好がプレミアム化、スマート化に向かう中で、同社は国内での大幅な成長も見込んでいるという。

サプライチェーンの革新と世代間の融合

デンは、より長期的な視点から、PetSnowyのブランドを父が築きあげたサプライチェーンと統合し、より大きなイノベーションとシナジーを生み出す戦略を描いている。彼の考えでは、伝統的なサプライチェーンを持つ企業が異分野でブレイクスルーを実現する上での最大の障害は、「古い発想と技術的な惰性」にあるという。それを乗り越える上では、レガシー企業の製造分野の知見と、新たな世代の起業家の機敏さ、野心、デジタル感覚を融合させることが重要だとデンは述べている。

この計画の実現に向けて、彼は昨年、具体的な行動を起こした。Xing Risheng Group傘下にある6企業の製造部門で、ドイツSAPの技術を用いたデジタル化プロジェクトのディレクターを務め、5カ月でそれらを成功に導いた。これによりデンは、中国で最年少クラスのSAP導入ディレクターとなったと述べている。

ペットフード市場には参入せず、独自の道を進む

一方、彼はPetSnowyが今後進出しない分野として、ペットフードを挙げている。デンは、多くのペットブランドが参入するこの競争の激しい市場について、「もしもこの市場に参入するとしたら、ニュージーランドかオーストラリアに農場を買って、独自の製品を作ることになるだろう。価格競争の消耗戦には加わらない」と語った。彼は、それよりも今は、ペットとその飼い主たちを革新的なテクノロジーで結びつける、巨大で成長を続ける市場に注力している。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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