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2015.09.08 08:00

日本の「忘れ去られた英雄」 フラッシュメモリを開発した男、舛岡富士雄


東芝は01年12月、DRAM事業から撤退し、フラッシュメモリに重点的に経営資源を投入すると発表した。

02年現在、東芝のメモリチップの売上高は、年間12億ドル(1,440億円)に達しており、金額は明らかにされていないものの、その中には他のメーカーから得ている特許使用料も含まれる。

フラッシュメモリの市場は数年以内に1,500億ドル(18兆円)に達し、NAND型のシェアはさらに拡大すると予想される。NAND型のシェアが拡大するに伴い、東芝の利益も増加するが、舛岡の手にその一部がわたることはない。

だが、舛岡は、過去に囚われることなく、未来を見つめている。現在、舛岡は189件の特許を保有しており、その他に50件の特許を申請中である。さらに、まだ明らかにしていない最大の発明も控えている。舛岡は、過去8年間、東北の地で、3次元設計の新たなシリコン半導体テクノロジーに取り組んできた。

2次元の半導体テクノロジーは限界に達しつつある。今後、さらに回路が薄くなるにつれ、早ければ10年程度で、電子がシリコンの壁を突き抜ける量子トンネル現象と呼ばれる状況が出現し、限界に突き当たる。だが、3次元構造であれば「30年間、理論的限界を心配する必要がなくなります」と舛岡は言う。また、3次元構造では、回路の厚さが同じでも、速度を10倍に引き上げることが可能になる。

舛岡の口から、その具体的な内容が明かされることはなかったが、舛岡は、5年以内にこうした半導体の生産が可能になると確信している。そして、既にこの新たな発明を保護する基本特許の積み上げを慎重に進めている。

自らを売り込むことは、舛岡が苦手とする分野だが、今回、舛岡は、新たな発明の設計図面を実際の生産に移すために必要な資金を提供してくれるベンチャー・キャピタルを見つけたいと考えている。3次元デバイスの生産に必要な資金は、4,000万~8,000万ドルにもなる。

皮肉にも、彼の新しい発明から生み出される利益を最も多く手にするのは、またしても米国企業になりそうだ。

出る杭は打たれるという言葉通りの状況を嘆く日本人は少なくないが、今もなお、多くの日本人が、個を殺すことを求められている。

前半インタビュー=岩坪文子 02年取材文=ベンジャミン・フルフォード 翻訳=松永宏昭

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