「業界特化型M&A」と「バリューアップコンサルティング」を武器に、M&A業界で存在感を高めるスピカコンサルティング。再編が進む調剤薬局業界も、同社が注力する分野のひとつだ。その責任者であり調剤薬局M&Aのエキスパートである沖田大紀は、“傾聴力”で数多くのM&Aを成約へと導いてきた。
近年、事業承継や事業の存続のためにM&Aを選択する企業が増えているが、それが最も活発な業界のひとつが調剤薬局だ。スピカコンサルティング執行役員の沖田大紀(写真。以下、沖田)がその背景を説明する。
「調剤薬局は、病院や診療所で処方箋を出し、薬局で薬剤師が調剤する『医薬分業』を政府が推進することでできた業態です。ところがその結果、調剤薬局の数はコンビニよりも多くなり、明らかに供給過多になっています。そこで政府は10年ほど前から方針を転換し、調剤報酬の引き下げを繰り返してきました。それによって、薬局経営の収益性は年々厳しさを増しているのです」
人口が減少していくなかで事業者が利益を増やすためには、効率を向上させるしかない。ところが調剤薬局は小規模事業者が多いため、それが思うように進まない。また、地方では薬剤師の確保も難しくなっている。そうした課題を解決する選択肢のひとつとなるのがM&Aなのだ。沖田によれば、同業界は最も再編が進んでいる業界のひとつだという。
この調剤薬局業界に注力しているのが「業界特化型M&A」に強みをもつスピカコンサルティングであり、経験豊富な沖田がそのチームを率いている。
沖田は、新卒で証券会社に入社。社内では何度も表彰され、実績を上げて充実した日々を送っていたが、そのなかで企業が抱える本質的な課題について考えるようになる。
「会社経営にはさまざまな課題がありますが、事業承継ができなければ、どれだけ売り上げや株の運用がうまくいっても、すべてが途絶えてしまう。経営を存続させることこそが、最も重要な経営課題なのです。多くの経営者もそれを強く意識していますが、実は証券会社では、その支援が十分にできていないのが現状です」
そこで沖田は、事業承継の問題を解決できるM&A業界への転身を決めたという。

本人も気づいていない本音を聞き出す
大手M&A仲介会社に入ると、沖田は調剤薬局業界の部署に配属された。以来、8年以上にわたって同業界のM&Aを支援してきた沖田が強みとするのは、顧客の課題を掘り起こす「聞く力」だ。
「お客様が何を考え、どのような課題を抱えているのかを引き出す“聞く力”が大切です。なかには本人が気づいていない本音や真の課題もあり、それを丁寧に聞き出すことで、解決への道筋が見えてくることもあります」
沖田は、こうした“聞く力”で数々のM&Aを成功に導いてきた。ある地方の中小企業では、創業者の急逝により妻が経営を継ぎ、今後を見据えて事業承継を検討。会社のNo.2に継がせる方向で相談が寄せられたという。
だが、沖田が丁寧にヒアリングを重ねるうちに、「社員への承継は最適解ではないのでは」という違和感が見えてきた。
「一見、筋の通った承継案でしたが、オーナーには将来への不安がありました。継承候補者や社員にとって、その選択が本当に幸せなのかを懸念されていたのです」
最終的にNo.2とも話し合い、会社は沖田の仲介で大手企業に譲渡された。継承候補者はその後も取締役として活躍しており、より広いフィールドでいきいきと働いているという。
沖田は本質的な課題解決を重視するため、顧客と長い付き合いになることも少なくない。M&Aには適切なタイミングがあるため、時機をとらえて最適な提案を心がけているという。
調剤薬局業界の未来を切り拓く志のあるコンサルタント集団
スピカコンサルティングの調剤薬局チームには、沖田をはじめとする経験豊富なコンサルタントが在籍しており、メンバーの平均経験年数は6.6年にのぼる。いずれも「業界をより良くしたい」という高い志をもっており、業界の発展を経営支援の面から支えるべく、スピカコンサルティングに集まった。
また、M&A業界では珍しく、チーム内のナレッジ共有にも積極的だ。
「M&A仲介は属人的になりやすく、隣の席の人の業務すらわからないという業界ですが、当社ではその壁を打破しています。自分が担当でない案件であっても興味関心をもって、日々アンテナを立てることが企業文化として定着しているからです。ITツールなども活用して案件の進捗状況や成約のポイントをチームで共有し、M&A全般のノウハウも蓄積しています」
このような共有文化があることで、新人であっても早期に即戦力として活躍できる体制が整っているという。また、調剤薬局業界での成功事例は、業界の壁を越えM&Aが進む物流など他業界への応用にもつながっている。
同社のもうひとつの強みに「バリューアップコンサルティング」がある。経営に入り込んで人事評価制度から経営戦略までを支援し、企業価値を高めるコンサルティングだ。
「健全な財務状況など、譲り受ける企業から見て魅力的に映る会社にしておく必要があります。20年、30年と経営していれば、会社にはいろいろなことがありますが、それを整理しておかなければなりません。そのためには、外部の目を入れて行うことが非常に重要です。M&Aを成功させるには、制度の整備や薬剤師をはじめとする人材の質、調剤報酬が正しく算定されているかといった点が特にポイントになります」
譲渡企業だけでなく、譲受企業にバリューアップコンサルティングを提供することもある。企業価値が向上することで、譲渡企業から安心感を得られるからだ。
「譲渡企業からすれば、長年経営してきた会社を任せることになるので、譲受企業にはビジョンが求められますし、経営者には覚悟も必要。譲渡企業からの信頼を得るためのお手伝いも私たちは行っています」
同社では、時価総額トップ20位に入る企業のM&A戦略の策定から実行までも支援しているという。
業界再編が進む調剤薬局業界は、今後どのように変化していくのか。沖田は、そのビジネスモデル自体が転換期にあると指摘する。
「医療業界では、マイナ保険証の導入やオンライン処方の普及など、デジタル化が急速に進んでいます。従来主流だったFAXも、やがて姿を消すでしょう。調剤薬局もその変化に対応しなければ生き残れない時代が来ています」
こうした環境の変化を前に、M&Aはますます重要な選択肢になるという。
「中小企業が成長を続けるには、他社の力を借りることが不可欠です。M&Aは、オーナーや社員がより幸せになれる手段のひとつであり、実際に私がかかわった皆さんは幸せになっています。会社を次世代に継承することを支援できるこの仕事は、大きなやりがいがあります。今後も経営者の声に耳を傾けながら、ひとりでも多くの方に寄り添いたいと考えています」
スピカコンサルティング
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おきた・だいき◎スピカコンサルティング執行役員。調剤薬局M&Aのエキスパート。青山学院大学卒業後、大和証券入社。2017年に日本M&Aセンターに入社し、業種特化型の中堅・中小企業のM&Aに取り組む。入社後の累計成約件数は、在籍当時のコンサルタント(約600人)のなかで2位(19年・21年の成約件数は全社1位)。23年よりスピカコンサルティングに参画し現職。執筆参加に『VALUE UP 成功事例でわかる業界特化型M&Aと企業価値向上戦略 調剤薬局業界編』などがある。



