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2025.08.22 20:00

【小塩篤史×NEC】AI時代を勝ち抜く「物語資本」と「信頼資本」とは──日本企業の新たな競争優位性を解く

AI技術が急速に社会実装される時代において、企業が構築すべき「信頼」の本質が根本的に変わろうとしている。従来の財務指標では測りきれない無形資産の価値をどう可視化し、ステークホルダーからの信頼をどう獲得するか——。データサイエンスやAI、経営科学、未来学などに精通する麗澤大学教授 小塩篤史とNECブランドエクイティエグゼクティブ 角谷貴士が、従来の信頼概念を覆す「2軸構造」の重要性と、日本企業が持つ独自の可能性について語り合った。


なぜ今「見えない価値」の可視化が企業経営の急務となったのか

——連載第1回では、NECの「ブランドエクイティ活動」による無形資産の可視化についてうかがいました。そもそも、なぜ今このタイミングで、企業価値を測る指標として従来の財務諸表だけでは捉えきれない「見えない価値」への注目が高まっているのでしょうか。この背景をどのように捉えていらっしゃいますか。

角谷貴士(以下、角谷):NECでブランドエクイティ組織を立ち上げた背景には、経営陣から長らく「ブランドが企業価値にどう貢献しているのか」を問われ続けたことがあります。顧客や社会からの信頼や認知度、愛着といった無形資産の集合体とも言えるブランドの価値を見える化しない限り、「ブランドに価値があるのか」という大前提から問われてしまうのです。

見える化することで、「価値があるかないか」の議論を超えて、「どのような行動をすればより企業価値につながるか」という話に持っていきたかったんです。さらに、将来的に社会関係資本、つまり企業と社会との信頼関係や結びつきの強さに関する開示要請があると仮定してその準備を進める必要があると考えました。

小塩篤史(以下、小塩): 文明論的に見ると、我々は農業・工業時代に「見えるもの」をつくることを中心としてきました。しかし1990年頃から情報社会へ転換し、「目に見えないもの」が急激に重要になっていたという背景があります。

ところが、社会が見えないもの中心になったにもかかわらず、我々は依然として見えるもので意思決定をする癖が残ってしまっている。私は人間の感情や優しさといった見えないものをもっと大事にしたいのですが、 見えないものを見えるようにする工夫も必要だと感じます。

企業価値も同様で、 見えている部分は短期的・定量的なものが多い。実際には企業の中にいる人々、顧客、蓄積されたデータなど、本来はそれらすべてを含めて捉えるべきでしょう。社会関係資本——企業が社会にとって必要なインフラとして認められていることの証をどう評価し、可視化するかが重要になってきていると思います。

小塩篤史教授
小塩篤史教授

「過去の安心感」と「未来のドキドキ感」——信頼の2軸構造

角谷:まさにその「見えない価値」の典型例が、弊社が持つ歴史と信頼なのではないかと。NECは126年の歴史を持ち、各時代の顧客に必要とされるものを提供してきました。しかし、この顧客との関係を将来も維持できるかは別の問題です。 

126年の歴史があると、当たり前のように企業が存続し、顧客が理解してくれると勘違いしがちです。過去の信頼があっても、それが必ずしも将来の期待になるわけではない。どういう企業である必要があるのかをブランドエクイティという立場で可視化する必要があるだろうと考えています。 

小塩:そこが核心ですよね。足りていないのは「未来軸での信頼」なんですよ。過去と現在のNECへの信頼はあるけれど、未来に対して何かをしてくれるのではないかという信頼が欠けている。

 基本的に信頼は、期待を裏切らない「安心感」という資源ですが、未来に対しての信頼というのは「ドキドキ感」や「期待」です。 現状、その「期待」という信頼を獲得している際たる例がNVIDIAでしょう。彼らがつくるものに対して「 NVIDIAだったら急激に進化するAIの市場の中で何かを成し遂げてくれるのではないか」という期待を彼らは集めている。企業戦略やスピード感、同社CEO ジェンセン・フアンのフラットな人柄も含めて、ブランド形成につながっています。

ただ、この「安心感」と「ドキドキ感」は、両方があってこそ、素晴らしい企業の形成につながるはずです。「安心を感じられる友達としてはいいけど、恋人にするにはつまらない」と思われてしまうような関係では退屈です。逆もしかりで、「いつもドキドキさせてくれて恋人にはいいんだけど、一生付き合える安心できる友達にはなれない」と思われてしまっては、その関係性を長続きしなくなってしまうでしょう。 

日本企業は、安心感はあるけれど、ドキドキ感の演出が弱い。未来ビジョンの策定では最初はいい案が出ていても、意思決定の過程で「どこかで見たことがあるような話」になってしまう。ドキドキ感は、合意形成ではつくれないのです。しかし今求められているのは、「NECはしっかりした会社なのに、あんな尖ったことも言うんだ」というギャップ萌えのような要素かもしれません。

角谷:この「過去の信頼」と「未来の期待」という構造は、弊社のPurposeにも言えることだなと感じました。NECグループのPurposeに「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し」とありますが、小塩先生の著書で指摘されている「安全」と「安心」の違いが非常に示唆に富んでいますよね。安全は過去の実績で証明できる——「ここでは◯年間事故が起きていない、犯罪が起きていないので安全です」と言うことができます。しかし「ここは安心です」と言っても、それは人の心に働きかけるものであり、過去の実績では安心の押し付けはできません。

弊社のPurposeも、安全は過去の実績や合理性で説明できますが、安心の先には人の心に働きかけられた期待を内包しているので本当にデータやAIが社会に溶け込んできた中での真の安心、つまり体験価値の創造までしっかり見せていかないといけないと感じています。

AI時代に求められる「正しい知性」と「優しい知性」の統合

——では、日本企業が過去の信頼(安心感)の源泉となる「人間性」という強みを活かしながら、未来の信頼(ドキドキ感)を創出する技術革新でも期待を獲得するには、どのようなアプローチが必要でしょうか。

小塩:日本企業には生産性や効率にこだわる「合理的な正しさ」を追求するという点において弱い面があります。ステークホルダーとの関係性の中で優しく振る舞うことは得意ですが、グローバル市場で期待を獲得していく戦略は不得意です。

一方で、日本企業が得意なところもあります。創業100年を超える長寿企業は日本にもっとも多く、明治維新、関東大震災、世界大戦という歴史的変化を生き残ってきた適応力を持っている。その基本にあるのは、「お客さんのニーズにちゃんと答える」という商売哲学です。 

NVIDIAとNECの時価総額を比較すると、NECがおよそ5兆円なのに対してNVIDIAが500〜600兆円とも言われます。しかし、本当に両社に100倍の企業価値の差があるかといえば、さすがにそれはないでしょう。期待のつくり方が上手な企業が、より高く評価されているのです。

正しい戦略性と、人間らしく、利害関係者のニーズに応える「優しい」側面が共存できるといいのですが、例えば全て合理だけで判断するような会社に優しい仕組みを入れるのは困難でしょう。逆に、優しさが強い企業が正しさを追加するほうが両立しやすい。100年生き残るには矛盾を抱える必要があり、多様性を含んでいるほうが生存しやすいのです。

角谷:正しい知性でいますと、例えば業務プロセスの変革など、これからよりグローバル競争をしていく上で、AIによって合理化できるところはできるだけ合理化を進めていく。一方で、その正しい知性が本来もっている優しさの上書き、置き換えになってはいけないと思っています。合理化が前提にある中で優しさという余白をどう価値に転換していくか。ここを意識しないと、もともと合理性、効率という「正しさ」を追求してきた米国企業の後追いにしかならず、我々が長く培ってきた「優しさ」という強みをうまく活かすことができません。

角谷貴士
角谷貴士

小塩:今後、AIはよりパーソナルなものへと進化していくでしょう。そうしてAIが私たちの生活にもっと入ってくると、今度は知らない間に不適切な方向に誘導されるかもしれないといった不安が出てくるはずです。だからこそ、信頼が今後もっとも重要な資産になるだろうと思います。

私は研究者として、いずれはドラえもんのようなAIをつくりたいと考えています。一方、シリコンバレーのテクノ・リバタリアンはテクノロジーで人間をコントロールしようとする傾向がある。ドラえもん的AIは利用者に愛情を持ち、時には怒ったり、指示が不適切だと思えば秘密道具を出さないこともある。このようなAIには信頼が不可欠で、透明性と開示が必要です。

角谷:おっしゃる通りですね。NECでは「技術に色はない」という考えで、正しいことに技術を使うことを会社全体で取り組んでいます。コンプライアンス(法的遵守)はもちろんのこと、インテグリティ(倫理的正しさ)を重視し、法やルールを超えた倫理観に基づいた判断をしています。

さらに、他国にはない日本ならではのインテグリティを持った形で正しいことに技術を使う会社であれば、信頼が生まれ、データを預けていただけますよね。これからAIがより社会に実装される中で、新しい信頼の要素をブランド観点で追求していきたいと考えています。

「物語資本」と「信頼資本」の構築——AI時代の企業競争力の源泉

 角谷:企業価値もブランド価値も「将来期待」を基盤としているという意味で、同じです。企業価値は将来期待キャッシュフローを現在価値に割り引いたもので、ブランドは今の体験価値をベースにした将来の期待——「将来このブランドだったらこういうことをやってくれるのではないか」という期待を持たせてくれるという体験価値が、そのブランドを決めています。

金銭価値で表現される企業価値と、体験価値で表現されるブランドは表現方法が違うだけで、実は両方とも将来期待なんですよね。この理解が浸透すると、将来の期待値をどこまで持ってもらえているかという課題が明確になるのではないかと。

小塩:素晴らしいアプローチです。難しいのは、期待の世界や未来の話は、当然ながら外れたり失敗したりすることもある、ということです。そのリスクをとる態度と安全という過去の実績との間で、せめぎ合いも起こりやすい。ある程度失敗も許容できる、安心して失敗できる環境をつくることが重要だろうと思います。

しかし、日本企業は夢の語り方や夢の表現が非常に抽象的です。語り慣れていないし、語り合っていないから「世界の人を幸せにします」「テクノロジーを社会に溶け込ませます」といった抽象的な表現になってしまうのでしょう。

これからAIで日本が活躍するには、基盤技術においてはほとんどシェアを取られてしまっている状況でも、車をつくることだけが自動車産業でないように、AIの信頼性評価やAIやロボットの安全性を担保する仕組みなど、日本と相性のいい領域はたくさんあります。しかし、そこに関わっていくには、自分たちがどういう哲学でAIをつくっているか、どういうものを求めているかという自己表現をちゃんとしていかなければなりません。

角谷:ブランドは黙っていても育ちません。ブランド価値の現在地を可視化し、従業員やすべてのステークホルダーに現在地と将来期待を伝える活動が重要だと考えています。製造業を中心とした有形資産投資から無形資産投資の情報社会に時代が大きく変化する中で、無形資産の中でもブランドをわかりやすく見える化して期待値を持ってもらうことでステークホルダーとの信頼の物語が始まり、それが次のビジネスや利益につながります。

小塩:これからのAI時代において重要なのは、「物語資本」と「信頼資本」の構築です。物語資本とは、自社がどのような価値を社会に提供し、どのような未来を創造するのかを説得力のあるストーリーとして語る力。信頼資本とは、その物語を支える実績と透明性に基づいた、ステークホルダーからの深い信頼です。

合理化により生まれる「余白」をどう価値として使うかが、今後の日本企業の成功の鍵となるでしょう。アメリカ企業の後追いではなく、日本企業が培ってきた優しさを前提とした上で、未来への期待を創出していく。この物語資本と信頼資本の両輪を理解し、実践していくことが、AI時代の企業競争力を決定づけると考えています。

日本電気株式会社
https://jpn.nec.com/

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(註1)NECのPurpose:NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。


こしお・あつし◎麗澤大学工学部教授・EdTech研究センター センター長、株式会社HYPER CUBE取締役CTOなどを兼任。データサイエンス・人工知能領域の研究を背景に、研究者・起業家としてAIやメタバースなどのデジタル技術による人間の可能性の拡張をすすめる。特に、医療・教育などの人間と密接に関わる領域でのITやAIの研究開発を行い、記憶を持ち、ひとに寄り添う「やさしいデジタル・AI」の社会実装を行う。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院客員研究員、事業構想大学院大学教授等を経て現職。著書に『やさしい知性』(ゴマブックス)ほか。

すみや・たかし◎NEC 経営企画・サステナビリティ推進部門 ブランドエクイティエグゼクティブ。米国マサチューセッツ大学 経営学修士(MBA)。知財・無形資産経営フォーラム 幹事 第二分科会長(ブランド戦略)。ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(現ソニー株式会社)にてスマートフォン「XPERIA」の商品企画業務を統括。2020年NEC入社。コーポレートデザイン本部長代理としてデザイン経営を推進。現在はブランドエクイティアジェンダをリードし、社会と企業の持続的成長を支える企業ブランドのあり方について多角的に分析している。


撮影協力:Glass Rock https://www.glass-rock.com/
東京・虎ノ門ヒルズ グラスロック4階/地下1階に所在する、企業・行政・NPOなど多様なセクターの連携と共創により社会課題の解決を目指す会員制拠点。

Promoted by NEC | text & edited by Miki Chigira(HAGAZUSSA) | photographs by Tomohisa Kinoshita