国内市場がシュリンクする日本経済の活路は海外。今回は「令和のカレンシーハンターは誰だ?」シリーズ第1弾として医療・介護・ヘルスケア産業を取り上げる。
静かに、しかし確実に、日本発の医療・介護インフラ、そして、ヘルスケアが海外で存在感を高め始めている。高齢化という未曾有の課題に世界で最も早く直面したこの国が、今、その経験知を「輸出可能な価値」としてグローバルに活用しようとしているのだ。
例えば、医療体制や保険制度が未整備な部分があり、人口拡大に比して医療分野の開発不足が目立つバングラデシュ。その同国に日本企業が病院を建て、運営まで担っている。手がけているのはシップヘルスケアホールディングス。国内では病院の設計や設備導入を担ってきた同社が、アジアで国民向け病院の開設に踏み切ったという事実は、医療が単なる「人助け」ではなく、国をまたいで機能する「社会システム」へと変容していることを示している。
包括的アプローチに強み
こうした日本企業の展開は、「高品質な医療をどう普遍化できるか」というグローバルな問いに対する、ひとつの実践的な回答でもある。現地の課題は決して日本のものとは同じではないが、根底にある「医療を届ける難しさ」は共通する。ゆえに、単なる技術移転ではなく、制度運用や現場改善といった「ソフト面」を含めた包括的なアプローチが、日本企業の強みとなる。
障害福祉の領域を見てみると、ここでも日本発の動きが海外に広がりつつある。
LITALICOは、米国の強度行動障害者向けグループホーム運営企業を買収し、日本で培った障害者支援のノウハウを現地に応用。行動療法や教育現場でのサポートモデルなど、日本型の個別最適化された支援設計が、グローバルに通用することを証明しつつある。特に米国のような多民族社会において、「画一ではない支援のあり方」は注目を集めており、日本発の支援設計思想が価値をもち始めている。
さらにはエムスリー。国内では日本の医師の約9割が利用するという国内最大級の医療従事者向けサイトとして圧倒的な存在感をもつが、現在はその医師向けプラットフォームを武器にグローバル展開を強化中だ。欧州ではVidalグループやドクターネットUKを傘下に収め、アジアではインドの医学生向けeラーニング企業を取得。これにより、世界各地の医療従事者ネットワークを独自に束ねる「プラットフォーマー型企業」への進化を図っている。今後は医師同士の知見共有や、医療資源の効率配分、遠隔教育などを通じて、「知のインフラ」そのものへと近づいていく可能性もある。
こうした動きはすべて、日本が世界で最も早く超高齢社会に突入したことの「副産物」でもある。団塊世代が75歳を迎える「2025年問題」を皮切りに、医療・介護需要の急増、生産年齢人口の急減、制度の持続可能性への不安が重くのしかかっている。そして2040年には、65歳以上の人口すら減少に転じる「2040年問題」が現実となる。今まさに、日本社会は「人の支え合い」の構造を根本から問い直されている。



