
高齢者ビジネス第一人者が見る食が開く、海外シニアビジネス
村田裕之|村田アソシエイツ 代表取締役 東北大学特任教授
私はこれまで高齢社会の研究に取り組んできたが、その中で強く実感しているのは、日本の食こそが海外市場で外貨を稼ぐ強力なビジネスモデルになり得るということだ。「何を楽しみにしているか」と訪日観光客に聞けば、真っ先に食と答える人が多い。裏を返せば、食こそが日本文化のなかでも国際競争力のある分野だという証左でもある。日本食は低カロリー・高タンパクで味の満足度も高く、健康志向の高まる世界の中でも強い訴求力を持つ。高血圧や肥満などの生活習慣病が多い欧米諸国の高齢者にとって魅力的であり、実際に高級老人ホームなどでの関心も高まるだろう。また、精巧な包丁や調理器具といった食を支える日本のものづくりにもニーズがある。今後は文化背景を理解し、現地の食文化やライフスタイルに応じて日本食を再構築・翻訳できる、ミールクリエイティブプロデューサーのような人材も需要がある。健康増進は食から始まる。今こそ、日本が持つ知見と文化を食を通じて世界に届けるべきだ。
スマートウエルネスシティ推進者 高まる日本の健康増進産業機運
久野譜也|筑波大学大学院人間総合科学学術院教授、筑波大学 スマートウエルネスシティ政策開発研究センター センター長
筑波大学がマレーシア・クアラルンプールに日本の国公立大学として初めて学部を設置した背景には、親日家として知られるマハティール元首相の「日本に学べ」という方針があった。このご縁もあり、私はスマートウエルネスシティの政策研究と実装を担う立場として、近年シンガポールやマレーシアを中心に日本企業とともに現地を訪れている。これらの国々では経済成長に伴い、先進国の健康課題を繰り返さないよう、予防重視の視点から健康まちづくりに取り組もうとする機運が高まっている。また所得向上により、プロスポーツ観戦といった健康的な娯楽への関心も高い。2004年からシンガポールのプロサッカーリーグに参加しているアルビレックス新潟シンガポールは地域密着の活動を通じ、広義の健康増進産業として存在感を高めている。今後、スポーツを含めた日本の健康増進産業が海外で活躍できる可能性が高い。その際に大切なのは、現地の文化やニーズを尊重し、共に学び合う共創の姿勢である。
在宅医療の旗手「注目に値する領域はこれだ」
佐々木 淳|医療法人社団 悠翔会理事長
日本の公的ヘルスケアサービスは世界的に見てもハイレベルだと感じる。医療サービスのインバウンドや、介護サービスのアウトバウンドは十分に可能性がありそうだ。特に医療領域のインバウンドにはもっと積極的に推進してもよいのではないか。注目に値する具体的な領域としては、健康増進を促すゲーミフィケーションをはじめ、フィットネスのアプリや運動促進プログラムを備えたウェアラブル系。また健康維持に効果的な「低カロリー+高タンパク」のパッケージ食や、摂食・嚥下に障害のある方のための「食べる楽しみ」を守るフードの領域なども見逃せない。さらに、健康維持のために最適化するスマートホーム技術、メンタルヘルス、電動車いす、パーソナルモビリティや福祉車両などのモビリティ系を含め、注目に値する領域は幅広い。また、健康促進行動に応じて保険料が変動するインシュアテック、ヘルスケア専門職のオンライン教育や研修なども今後ニーズが高まりそうだ。


