課題をテクノロジーで解決
とりわけ喫緊の課題は、医療・介護現場における人材不足だ。限られた人材でサービスの質を保つためには、業務の効率化と人材の最適配置が不可欠となる。ここで鍵を握るのが、テクノロジーと制度設計だ。
例えば、メドレーが展開する「CLINICS」は、オンライン診療や予約管理により、患者と医師の移動・待ち時間を短縮し、医療提供の省力化を実現している。また、エムスリーデジカルが手がけるクラウド型電子カルテは、診療所や薬局、介護施設との情報共有を可能にし、複数の職種が連携するケア体制の構築を支えている。
さらに、医療ビッグデータを活用した精度の高い分析や業務支援も進んでいる。JMDCやメディカル・データ・ビジョンは、医療データを活用し、病院経営の最適化を支援。これにより、医療の質とコストの両立という難題に挑む体制が整いつつある。今後はこうしたデータを通じた「予防・早期介入」の仕組みづくりが鍵となり、治療中心から予防・マネジメント中心の医療へと転換していくことも期待されよう。
こうした技術革新が進む一方で、地域間格差という問題も浮き彫りになっている。人口減少が進む地方では、医師・看護師の確保すらままならず、インフラの老朽化も進む。都市部とのサービス水準の格差は深刻で、このままでは医療の「空白地帯」が全国に広がる懸念がある。野村證券エクイティ・リサーチ部 医薬ヘルスケアチーム ヘッドの繁村京一郎氏は、こうした状況に対して「都市集中と地方ネットワーク化の両立」が不可欠だと語る。つまり、都市に高機能な医療資源を集約しつつ、遠隔医療やモバイルサービスなどを活用して地方と結ぶ、という「面」でのケア提供モデルが求められているのだ。
しかし、こうした知見やモデルの多くは、いまだ国内市場に閉じられている。制度の枠に収まりすぎており、グローバル展開の観点で語られることが少なかった。だが実際には、医療・介護制度そのものの設計、運用ノウハウ、現場改善の知識は、今後高齢化を迎えるアジア諸国や新興国にとって大きな価値をもつ。特にASEAN各国では、都市部への人口集中と地方の医療アクセス格差が日本と酷似しており、日本の「失敗も含めた経験」がそのまま未来の参考事例になる可能性が高い。

事実、セコムはかつて中国で高齢者施設を運営していたが、撤退を余儀なくされた。その反省を生かし、現在はインドで豊田通商と連携し、病院開発・運営を着実に推進中だ。前述のシップヘルスケアも、医療ガス設備のインドネシア等の海外展開に加え、介護用設備を中国で展開。地域ごとの法制度や文化に配慮しながら、柔軟にモデルを調整している。単に「日本のやり方を輸出する」だけではなく、各国固有の事情に合わせてカスタマイズする「適応型モデル」が鍵となっているのだ。


