アジア

2025.08.05 10:00

タイとカンボジアはどのように戦ったのか 砲兵戦・空爆・ドローン

オーストラリアでの多国間演習「ピッチ・ブラック」で飛行するタイ空軍のヤース39Dグリペン戦闘機。2024年7月18日、豪ダーウィン(DLeng / Shutterstock.com)

両軍は2025年5月末にも交戦していたが、カンボジア軍はそれに先立ち、自軍の砲システムで最も新しい部類に入る中国製SH-1(PCL-09の輸出版)122mm自走榴弾砲12両前後を国境地帯に配備していた。7月の交戦では、タイ軍がイスラエル製ATMOS 2000(タイ軍での制式名称はM758)155mm自走榴弾砲や、米国で開発され第二次世界大戦でも使用されたM101牽引式榴弾砲を、カンボジア軍がD-30 122mm牽引式榴弾砲をそれぞれ使用したことも記録されている。

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タイ軍がカンボジアの軍事目標に対して使用したとしているクラスター弾は、榴弾砲から発射された可能性が高い(航空機からの投下やロケット砲からの発射もあり得る)。クラスター弾をめぐる論争については稿を改めて論じたい。

航空戦力と防空システム

タイ王国空軍は7月24日、カンボジア軍によるロケット砲攻撃に対する報復のため、初めて戦闘用航空機の投入に踏み切った。対するカンボジア王国空軍は現在、運用可能な戦闘用航空機を配備しておらず、旧ソ連製か中国製(Z-9)の輸送用ヘリコプターや汎用ヘリコプターしか保有していないため、有人航空機でのタイ軍機迎撃や反撃は不可能だった。

タイ空軍による最初の空爆ではF-16戦闘機6機が出撃し、カンボジア王国陸軍の第8、第9両歩兵師団の指揮所を攻撃した。タイ側を砲撃したロケット砲部隊は両師団の指揮統制下にあったとされる。

F-16はその後数日にわたって空爆任務に投入され、7月26日にはF-16のペアと、より新しいスウェーデン製グリペン戦闘機2機による攻撃部隊が編成されて出撃した。スウェーデンで30年近く前に運用が始まったグリペンが、実戦で使用されたのはこれが初めてである。この攻撃ではカンボジアの砲兵陣地2カ所に対して、500ポンド(230kg弱)のGBU-12ペイブウェイIIレーザー誘導爆弾が使用されたと報じられている。

英国の軍事専門誌『フライトグローバル』の年次レポート「World Air Forces」によれば、タイ空軍は米国から輸入したかシンガポールから譲渡されたF-16計52機のうち、運用可能なF-16A(単座)とF-16B(複座)をなお35〜36機保有しているとみられている。これらはタイ東北部のコラート空軍基地と北部のタークリー空軍基地を拠点とする計3個の飛行隊に配備されている。うち18機は2010年代に就役中近代化(MLU)が施され、新型のコンピューターを搭載してより長距離のセンサーや兵器、自己防御システムに対応している。

タイ空軍はまた、スウェーデンから取得したグリペン-C(単座)とグリペン-D(複座)計12機のうち、11機を引き続き保有している。コックピット近くにカナード(先尾翼)を持つのが特徴のグリペンは、F-16に比べると推力重量比は劣るものの、レーダー反射断面積は小さく、運用コストも低く、また、はるかに短い簡易的な滑走路からも安全に運用できる。報道によれば、タイと中国が2015年に行った合同軍事演習で、タイ空軍のグリペンは中国空軍のJ-11(殲-11)戦闘機との視程外(BVR)空対空戦闘で優勢だったという。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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