パレスチナの地も揺れ動いた。土地と宗教で揉めごとが絶えないなか、サイクス・ピコ協定に代表されるような欧州、ロシア、オスマン各国の思惑にも翻弄された。米国も干渉を強めた。アラブとイスラエルの歴史的スパンの争いは現世の利害と宗教が絡んでいるうえ、欧米の自国第一主義的な覇権抗争が混乱に輪をかけてきた。
日本も長い歴史のなかでは、平安末期、室町末期のように内戦状態を経験してきた。だが、パレスチナのように歴史そのものというべき間断ない戦乱の社会は経験していない。異民族間の血で血を洗うような抗争とも無縁だった。
10年ほど前になるが、会津出身の友人が山口で開催予定の重要会議に欠席する、と連絡してきた。「俺の4代前の親戚は白虎隊で自刃した。西南諸藩の人間とは末代までかかわらない」。戊辰戦争から150年を経てもこうしたこだわりをもち続ける人がいる。日本でも数千年の戦乱が続いていたら、抑えようもない憎悪や怨念が蔓延し、解決の糸口すら見つからなかったのではないか。
中東、ウクライナを熱戦とすれば、トランプが世界中にまき散らす意図的で品性のないdealも一昔前なら熱戦を招いた。偉大なる中華民族の復興を狙う国の動向は冷戦を引き起こしている。旅客機で1時間ほどの距離の北朝鮮は、周知のように核で威嚇する国だ。
80年間、平和を所与と考えてきた私たちに、かつて日本を武装解除した米国は防衛費の著増を迫っている。国際連合は非力だ。今や、理念やあるべき論と冷酷な現実とどう折り合っていくかを真剣に考えなければならない時代である。イスラエルで遭遇したアラブ人の険しい表情と柔和な笑顔が交錯する日々である。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。


