ヒトを含む哺乳類は、進化によって長生きできるようになったが、その「長寿」には遺伝的な制約がある。そうした制約の起源は、恐竜が地球を支配していた時代までさかのぼるのかもしれない。
鳥類や爬虫類(とりわけカメ)などの動物が、同じような体格の哺乳動物と比べて長生きするのはなぜなのか――そう首をひねったことはないだろうか。
その問いに対する答えとして考えられるのは、進化の名残で、その起源は、およそ6600万年前に大量絶滅で地球から姿を消した恐竜時代にまでさかのぼる。そう話すのは、老化の仕組みを分子生物学的に研究する英バーミンガム大学炎症加齢研究所(Institute of Inflammation and Ageing)のジョアン・ペドロ・デ=マガリャエス教授だ。
デ=マガリャエス教授は老化研究の第一人者で、研究者人生のすべてを、遺伝的、細胞的、分子的に老化の仕組みを解明することに捧げてきた。そして2023年11月、「長寿のボトルネック(longevity bottleneck)」という興味深い仮説を発表した。捕食性の恐竜が、哺乳類の老化プロセスに対して、生態学的ならびに進化的な影響を長きに渡って与えてきたが、その影響が今もまだ続いているという仮説だ。
しかし、その影響を免れてきた動物も一部存在する。前々から観察されているように、鳥類の大半そして一部の爬虫類と両生類は、老化の兆候がほとんど、あるいはまったく見られない。それに対してヒトを含む哺乳類はみな、はっきりとした老化現象を示す。こうした違いが生じるのはなぜだろうか。
デ=マガリャエス教授によれば、その原因はおそらく恐竜の食習慣にあるようだ。
「初期の哺乳類の一部は、食物連鎖の最下層に追いやられ、恐竜時代のあいだ1億年にわたって、速やかに繁殖して生き残れるよう進化してきたと考えられる」とデ=マガリャエスは言う。「それだけの長期間、進化的なプレッシャーにさらされてきたことが、私たちヒトが老化していく過程に影響を及ぼしたのではないか。私はそう提案する」
デ=マガリャエス教授が提唱した仮説によると、恐竜が君臨していた中生代、哺乳類は、捕食されてしまう前に、速やかに成長して繁殖しなければならない、というプレッシャーに絶え間なくさらされる状態が1億年以上続いた。その結果、長寿に関係した遺伝子が喪失したか、働かなくなった。特にこの影響を受けたのが、組織の再生とDNAの修復に関係のある遺伝子だ。



