「『長寿のボトルネック』仮説によって、 何百万年にもわたって哺乳類の老化を形作ってきた進化的な力を解明できるかもしれない」とデ=マガリャエス教授は説明する。「ヒトは最も長生きする哺乳類の一つだが、ヒトよりも老化の進行がずっと遅く、生涯にわたって老化の兆候が最小限にとどまる爬虫類や動物が多数存在する」
現代を生きる哺乳類の老化に関するさらなる洞察として、別の研究グループが興味深い発見をした。ジュラ紀前期のステム哺乳類(現生哺乳類とその直接の祖先を除いた、すでに絶滅した哺乳類群)は、現在の爬虫類と同様に、老化の進行が遅かった可能性があるという(恐竜が優位に立つようになったのは、ジュラ紀の中期から後期にかけてだった)。
これらの研究は、多くの鳥類(鳥類もそもそも恐竜の一種だった)と一部の爬虫類、とりわけカメは、酸化ストレスとそれに伴う組織損傷の対処に必要な遺伝的仕組みを備えていることを示唆している。
「動物界を見れば、実に驚くべき再生の実例がある。そうした遺伝子情報は、ティラノサウルスに捕食されずに済んだ運のよい初期の哺乳類にとっては不要だっただろう」とデ=マガリャエス教授は説明する。「現代にはヒトやクジラ、ゾウといった長寿の大型哺乳類が数多く存在する。しかし、私たちヒトやそうした哺乳類は、中生代に起源をもつ遺伝的制約があって、多くの爬虫類よりも驚くほど速く老化する」
このような遺伝子の喪失はさらに、哺乳類が年齢とともにがんを発症しやすい理由を説明する可能性もある。
「現時点ではあくまでも仮説にすぎないが、老化を巡っては、好奇心をそそられる切り口が多数ある。例えば、がんの発症がほかの種より哺乳類に多く見られるのは、進化の過程に原因があるのではないか、という見方もその一つだ」
出典:
ジョアン・ペドロ・デ=マガリャエス(2023年)「The longevity bottleneck hypothesis: Could dinosaurs have shaped ageing in present-day mammals?(長寿のボトルネック仮説:現代の哺乳類の老化を形作ったのは恐竜か?)」 BioEssays | doi:10.1002/bies.202300098


