EdTechスタートアップInspire Highは2025年から、全国の10代の問いを表彰し、「年鑑」として冊子を発行している。その意義とは何か──。
私たちは、世界とつながる探究的な学びで10代が自らの問いを深める学習体験を届けていますが、なかでも「答えのない問い」に挑戦することが大事だと思っています。なぜなら、思考力と表現力を養うことにつながり、意見や価値観を共有することで他者を知る心も育めるからです。世界中のクリエイティブな大人たちの多様な生き方や価値観、仕事、社会課題に触れる体験として「Session」という動画教材を10代向けに提供してきたのもそれが理由です。オードリー・タンと「社会はどう変えられる?」と考えたり、詩人・谷川俊太郎と「言葉ってなんだろう?」、マサイ族長老と「アイデンティティってなんなんだろう?」と問うたりと、世界15カ国の刺激的な大人と10代が「答えのない問い」に向き合う学びです。
背景にあるのは、私たちが学びの目的と定義している「一人ひとりのウェルビーイング」の存在です。次の3つが高い次元にある場合をウェルビーイングな状態と考えています。
ひとつは、深い自己理解に基づいた自分なりの価値観をもっていることを指す「自己とのつながり」。ふたつ目は、異なる他者と競争するのではなく共感性でつながる「他者とのつながり」。最後は、自分はこの社会とつながり、変化を生み出せると考えている「社会とのつながり」です。10代の時点で、この3つのつながりが充足することが、その後の人生にとっても、個人の幸せ、それを拡大した社会の幸せにつながるのではないでしょうか。
「Inspired100」という名称で、10代の100人の問いを表彰して年鑑を制作したのは、「社会とのつながり」をより多くの生徒たちに実感してもらいたかったからです。1位、2位などのグランプリ形式にしなかったのもそれが理由です。「Session」に出演したガイド3人と企業15社に選出に携わってもらい、自分の「問い」が本気であれば社会は答えてくれることを伝えたいという思いがありました。結果今回は、「Social& Business」「Human &Culture」「Science & Innovation」の3部門で、2500件のエントリーから100の問いが選ばれました。下記表の15の問いに代表されるような「自分にまっすぐな問い」が数多かったのが印象的でした。
代表的な15個の「10代の問い」

人類の歴史は「問いの蓄積」によるものだと思っています。あらゆる問いから事業や学問が生まれ、人間社会があるとも言えます。であるならば、ここに集まった100の問いは、未来への希望の集合とも言えます。今回、年鑑を制作することで、その希望を心待ちにしている大人(企業や先生など)が社会にいることも10代をはじめ多くの人に伝えることができました。この取り組みは今後も続けて、これからの生徒たちが年鑑を見ながら、自らの問いを生むきっかけになればと思っています。
生成AIの登場により、「答えを出す」ことよりも「問いを生み出す」ことが価値になる時代へ移行していくことは明らかです。だからこそ、人間の根源にある学びの欲求や楽しさは「問いが立ち上がっていく」ところになっていくはず。この10代の100の問いを表彰する取り組みが広がり、「自分の問い」に挑む機会や「社会とつながる」機会となり、ウェルビーイングな状態の10代がひとりでも多く増えることにつながればいいと思っています。
杉浦太一◎Inspire High 代表取締役。学生時代にCINRAを創業し、2006年株式会社化、代表取締役に就任(24年取締役会長就任)。19年「世界中の10代をインスパイアする」をミッションに掲げるEdTechスタートアップInspire Highを立ち上げ代表取締役に就任。



