本多:Ontennaの開発も、自力では非常に困難だったと思います。ハードウェア開発はスタートアップにとってハードルが高い場合が多いですし、部品調達や採用も個人で進めていたら、製品化までに相当な時間を要したでしょう。国内に広く普及し、現在では海外展開も視野に入れられているのは、富士通というグローバルブランドの信頼と後押しがあったからです。一方で今後の課題だと感じているのは、こうした取り組みが一部の個人にとどまり、組織全体に十分に広がっていかない可能性です。企業のなかには、社会課題に取り組みたいという思いをもつ人が少なくありません。そうした思いを実際のアクションにつなげるためには、ソーシャル・イントラプレナーが安心して挑戦できるコミュニティや制度、予算の整備が欠かせないのではないでしょうか。
吉備:その必要性に気づく経営者が増えれば、ソーシャル・イントラプレナーのすそ野は一気に広がりそうですね。社会課題解決に取り組む人は、組織のなかでの立ち位置が曖昧だと、活動を続けるなかで「身近に相談相手がいない」と悩んでしまいがちです。私はPYNTを、社外・社内を含めたそんな人たちの“つながる場”にしたいと考えています。実際に当社では、新規事業コンテストで止まっていたアイデアが、PYNTで仲間を得て動き出すようなケースも出てきました。個人の思いが組織とつながり、社会を動かす力になるという循環をこれからも広げていきたいです。
働きがいの向上×エンゲージメント向上
香田:私はカーボンリムーバルの活動を始めてから、今まで以上に大きな充実感を覚えるようになりました。育休から復帰するときは「家族との時間を犠牲にしてまで働くからには、意義のある仕事がしたい」と感じたものですが、その思いに応える仕事ができている実感があります。日本は自己効力感が低い国だといわれていますが、自分が興味のある分野で社会的に意義のある活動に携わることは、自己肯定感や働く意欲の向上にもつながるはずです。企業がこうした取り組みを後押しすることは、働く人々の内発的なモチベーションを育て、組織へはもちろん、日本社会全体のエンゲージメントを底上げする力になりうると思います。


