今、新しいイノベーター人材が注目を集めている。大企業内で未来をつくる「サステナブル人材」のあり方とは。
「2030年、ソーシャル・イントラプレナーの働き方がスタンダードになっている社会をつくる」。そう話すのは、富士通の本多達也だ。ソーシャル・イントラプレナーとは、世界的に環境問題や社会問題が深刻化するなか、大企業に所属し企業のリソースを駆使しながら、新しい価値、取り組み、製品、サービスなどを通して、環境・社会課題の解決に挑む人たちだ。個人的な思いや興味、関心を出発点としつつも、企業活動として社会的責任と経済的成果を両立させ、新たな企業価値創出に取り組むのが特徴だ。従来のアントレプレナー(起業家)ともイントラプレナー(社内起業家)とも異なる場所に立つ、ソーシャル・イントラプレナーたちに注目が集まっている。日本を代表するソーシャル・イントラプレナー4人に集まってもらい、議論してもらった。
本多達也(以下、本多):私は富士通に所属しながら、ろう・難聴者が音を振動や光の強さで体感できるデバイス「Ontenna(オンテナ)」を開発しました。現在全国のろう学校の8割以上に導入され、音楽やスポーツ、発語教育などのさまざまな領域で活用されています。私の活動の原点は、学生時代のろう者との出会いにあります。もともとデザインとテクノロジーをバックグラウンドとしていたので、その知見を生かし聴覚を拡張して共に楽しむ体験を作りたいと思い、当時の卒業研究を発展させて製品化しました。このアイデアは富士通のものづくりのノウハウがなければ実現できなかったと思います。また知財のサポートも大変心強く、担当者から「こうした活動にかかわれて大きな充実感がある」と言われたときには、周囲と思いを共有しながら進められたことを強く実感しました。
香田和良(以下、香田):私は商船三井で石油や天然ガスの輸送に関する業務に従事してきましたが、その一方で気候変動問題には個人的に大きな関心をもっていました。会社が脱炭素の取り組みを本格化し始めたことを機に、当時欧米で話題になり始めていたカーボンリムーバル(大気中のCO2除去)事業へ挑戦したいと考え、新規事業提案制度を活用してマングローブによる再生保全活動を始めました。現在インドネシアの2万3500haの土地で再生保全活動を進めております。後にこの活動は会社の脱炭素戦略のひとつに位置付けられ、専門チームも発足しました。最近は自然の力を活用した手法だけでなく、工学的手法を用いたカーボンリムーバル事業にも着手しています。この取り組みを始めたことで国内外のさまざまなパートナーと連携する機会が広がり、海運会社の先進的な取り組みとして世界的に注目を集めています。
KEYWORD 1:ソーシャル・イントラプレナー|ソーシャル・イントラプレナーは、企業等のリソースを駆使し、新しい価値、取り組み、製品、サービスなどを通じて、環境・社会課題の解決を目指す次世代型の<イノベーター人材>のこと。(ソーシャル・イントラプレナー・スクールの定義)
KEYWORD 2:ソーシャル・イントラプレナーの魅力|<働き甲斐の向上>。個人の視点で見ると、仕事人生の充実において、マズロー5段階と6段階(自己超越)につながり、本当の働き方改革が実現できる。<エンゲージメントの向上とイノベーション創出>。会社の視点から見ると、会社全体の感度・士気などの向上につながる。 組織体質の健全化や強化にも大きく寄与する。(ソーシャル・イントラプレナー・スクールの定義)



