先日、ある知人が大病を患い、大手術をした。彼に聞くと、これまでも色々な体の不調はあったが、それを軽視し、根本的な治療をせずにやってきた結果、それが最悪の病状として現れ、この大手術になったとのこと。
この知人の大病の話は、筆者には、現在の世界の状況を象徴した物語のように思われる。
現在、発足半年のトランプ政権の一挙一動に、世界が振り回されているが、この「混沌」と呼ぶべき状況の中で、筆者は、メディアから「この政権をどう考えるか」という質問を、数多く受ける。
そうした質問の背後には「トランプ政権が原因となって、世界の政治的、経済的、社会的な諸問題が引き起こされている」との認識があると思われるが、しかし、筆者は、事実は逆であると考えている。
すなわち、いま世界で起こっていることは、「世界の政治的、経済的、社会的な諸問題(病)が原因となって、トランプ政権という最悪の現象(病状)を生み出している」と考えるべきであろう。世界が、これまで解決(根本治療)せずに放置してきた問題(深刻な病)が、いま、トランプ政権という現象(最悪の病状)を生み出しているのである。
そのことを、現在の資本主義、民主主義、自由主義、それぞれの「病」という視点から論じよう。
第一は、現在の資本主義の「歪み」である。
それは、世界中で貧富の差を拡大し続け、米国でも生活困窮層を大量に生み出してきた。その生活困窮層の不満や怒り、絶望感が、かつてのドイツのナチス政権誕生と同様、専制主義的政治を求め、虚偽の主張と誇大な幻想を振り撒いたトランプ政権を誕生させたのである。されば、現在の資本主義の歪み、経済格差の拡大と貧困層の窮乏を解決しない限り、世界中に大衆迎合主義(ポピュリズム)と結びついた専制主義が広がっていくだろう。
第二は、現在の民主主義の「脆弱さ」である。
実際、民主主義を守り、専制政治を抑止するための「三権分立」という制度さえも、トランプ政権によって、いともたやすく壊されてしまった。その現実を、我々は、「民主主義の手本」と言われてきた米国において、目の当たりにしているのである。
では、こうした歴史の逆行が、なぜ起こるのか。
それは、民主主義を掲げる勢力が、しばしば「理想主義」の自己陶酔に流されるからである。その甘さが、専制主義に走る勢力の「現実主義」のしたたかさに敗れ去る。それが現在の米国の姿であろう。



