AIによる採用前スクリーニングで、応募者の内面を探る
そして、AIが後押ししているのは、偽の応募者を見つける取り組みだけではない。企業は今や、将来の採用候補者に対するバックグラウンドチェックの一環として、SNSの履歴を精査するケースが増えている。Ferretly創業者のダリン・リプスコムCEOによれば、2019年に設立された同社は当初、政府機関や一部の企業向けの厳格な「セキュリティクリアランス」の一環として、SNSを含むオンライン上の活動を調査していたという。しかし、今ではAIの普及を背景に、同様のスクリーニングを一般企業の採用前チェックにも提供している。
Ferretlyは現在、警察や政治キャンペーンと提携するだけでなく、幅広い業種の企業と契約している。審査対象は経営幹部にとどまらず、顧客対応の現場スタッフ、SNSインフルエンサーのパートナー候補まで含まれる。同社は、社員数40人超、顧客数1000社以上に成長しており、NFLドラフトの候補者を審査した実績もある。Ferretlyはさらに、米国の民主・共和両党の議会選挙キャンペーン委員会、英国、オーストラリア、カナダの各政党とも連携しており、政治候補者、スタッフ、任命予定者の身辺調査を手がけている。
Ferretlyは、すべての候補者ごとに、SNS上の行動傾向(「いいね」や投稿数など)、特定のテーマに対する感情分析、エンゲージメント分析(非公開アカウントか公開アカウントか)を含むレポートを作成する。同社はレポートの内容について評価や判断は一切行わないと、リプスコムは強調する。
「私たちは、プロフィールを見て『この人物は我が社の価値観を体現しているか? 企業文化を強化できる人物か?』を判断するためのツールを提供している」とリプスコムは述べている。「同じ考え方を学生ビザの審査にも当てはめることができる。その人物がアメリカ文化を強化する存在なのかどうかを判断できる」。
つまり、調査の進め方はまったく同じではないものの、米国務省が強化した価値観や思想のスクリーニングと、民間企業で広がりつつある動きとの間には共通点があることになる。
AIと政治的緊張が生むリスク
現在の米国のように政治的ムードが過熱し、さらにAIの能力が高度化した状況において、米国の学生たちが自分のSNSがどのように利用されるかを懸念するのは自然なことだ。
例えば、大学進学ガイドサイトのIntelligent.comは昨年、ある調査を行った。対象は、大学キャンパスで親パレスチナの抗議活動に参加したと答えた672人の現役学生だ。その結果、回答者の半数以上が「自分の活動について採用面接で尋ねられた」と回答し、その内訳は、「常に尋ねられた」が11%、「よく」が19%、「時々」が23%だった。また、28%が自分の活動の「オンライン上の痕跡を削除した」と答えていた。さらに、29%が過去6カ月間に内定を取り消された経験があり、そのうち68%が、自分の活動に「確実に」または「おそらく」関連していると考えていた。
一方、ネバダ大学リノ校のペイン准教授は、「学生たちは、政治活動に限らず、性的指向や宗教などアイデンティティに関する事柄、メンタルヘルスや障害に関する情報をSNSで共有する場合は、注意を怠らないようにすべきだ」と警告する。州レベルの差別禁止法があっても、「採用において偏見は依然として微妙な形で作用する」と彼女は言う。
雇用差別を防ぐ法律の限界とAIへの懸念
では、採用に関する法律はどうなっているのか。
労働問題の弁護士で、Littler社のバックグラウンドチェック実務グループの共同代表を務めるロッド・M・フリーゲルによると、米国の28州では、SNSやインターネット検索から得られた情報のうち、雇用主が採用判断に利用できる範囲を規制しているという。「公開情報だからといって、雇用主が採用プロセスで自由に利用できるわけではない」と彼は言う。
もちろん、採用担当者や雇用主が、応募者の公開プロフィールを見て保護対象となる情報に偶然触れてしまう可能性はある。「だからこそ、企業は法的トラブルを避けるために、採用前のスクリーニングで利用できる情報の範囲を明記した、全社的な方針とガイドラインを定めるべきだ」とフリーゲルは述べている。
しかし、そのような制限がAIによるスクリーニングにも組み込まれるかどうかは定かではない。これから厳しい就職戦線に挑む大学生たちは、そこにあまり期待しない方が賢明だろう。


