偽応募者の急増と、AIスクリーニングという新たな対策
しかし、人工知能(AI)は、企業の採用の在り方を大きく変え始めている。AIの普及によって、他人になりすました求職者が急増しており、悪名高い事例がすでに存在している。アリゾナ州のある女性が巧妙な計画に関与したケースで、米国人の身元を盗用し、北朝鮮人を309社の米国企業のリモートIT職に就かせたていた。その結果彼女は、懲役102カ月の判決を受けた。
調査会社ガートナーは、2028年までにあらゆる求人応募者の4分の1が偽者になる可能性があると予測する。技術はすでに高度化しており、わずか70分で、AIの初心者でも偽のプロフィールを作成し、採用担当者や人事担当者とのオンライン面接中に本物の人物を装うことができるという。今年3月には、Vidoc Security Labs共同創業者のダウィド・モチャドロトが、外見をAIで偽装していた応募者との面接を途中で打ち切った様子をLinkedInに投稿した。彼によると、この手口に遭遇するのは2カ月で2度目だったという。
SNSを審査するAI企業「Tofu」の台頭
その状況を受けて雇用主は警戒を強めており、応募者のSNSをAIで事前にスクリーニングするという新たなビジネスが生まれている。企業は、そのサービスを用いて応募者が実在する人物かどうか、そして場合によっては企業文化に合致する人材かどうかを確認しようとしている。
例えば、創業2年の小規模なスタートアップであるTofuは、昨年9月に事業の方向転換を行い、機械学習とAIを用いて応募者のSNSのプロフィールや公開情報を分析し、実在性を裏付けるサービスを開始した。「このツールを用いれば、採用担当者は偽の応募者を面接の前に見抜くことが可能だ」と、Tofu共同創業者のジェイソン・ゾルタクCEOは説明する。
Tofuが調べる項目には、SNSアカウントの開設時期や、投稿や「いいね」の履歴、さらにはLinkedInでのつながりの数などが含まれる。同社はまた、削除されたプロフィールの最終確認日、空っぽに見えるアカウントの有無も企業に報告する。典型的な偽の応募者は、開設からおよそ4カ月しか経っていないLinkedInアカウントに2〜3人のつながりしか持たず、インスタグラムやTikTokのプロフィールも空白である場合が多いと、ゾルタクは語る。
「何もない」ことが疑いを招くという、個人情報削除のリスク
では、オンライン上の痕跡を消した学生や求職者は、どのような事態に直面するのか? ゾルタクによれば、彼らは必ずしも偽の応募者としてマークされるわけではないという。ただし、その可能性を完全に否定することもできないと付け加える。一方で、応募者が実在する人物かどうかを確認する方法は他にもあり、応募時に使用したメールアドレスの開設時期や、電話番号と通信事業者、プロフィールに含まれるメタデータなどを調べることも可能だと彼は述べている。
総じて言えば、学生たちは就職活動を始めるかなり前から、LinkedInのアカウントと応募用のメールアドレスを作成しておくべきだということになる。現代においては、LinkedInのアカウントは当然用意しておくべきものだろう。
しかし、リッチモンド大学キャリア支援チームのエリザベス・ソーディによれば、学生たちは長年にわたり「デジタルの足跡の危険性」を聞かされてきた結果、職業的な目的でSNSプロフィールを使うことに実は消極的だという。
そして、学生たちは今も変わらず「消去作業」を続けている。個人情報の削除を支援するDelete Me(デリート・ミー)のロブ・シャヴェルCEOによれば、卒業時期が近づくにつれ、自分のオンライン情報を削除するサービスを利用する学生は、これまで以上に増えているという。「若い利用者たちはある日突然、自分がいかに軽率にオンラインで情報を共有してきたか、そしてそれが至る所に出回っているかに気づくことになる」と彼は語る。「その時期は、ちょうど初めての就職活動と重なることになる」。
しかし、インターネットからあまりに多くの個人情報やプライベート情報を消しすぎると、裏目に出る可能性がある。Tofuのようなスクリーニングツールは、そうした情報を使って応募者が実在の人物であることを確認しているからだ。


