起業家

2025.08.05 08:00

60歳の薬剤開発者、難病治療薬の開発で時価総額6468億円のバイオ企業を築く

Images by Solskin/Getty Images

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長年にわたり薬剤開発に携わってきたスーマ・クリシュナンが、「栄養障害型表皮水疱症」というごく稀で深刻な皮膚疾患の治療に、肌に塗布して使う遺伝子治療薬を用いるというアイデアを思いついたのは40代後半のときのことだった。

栄養障害型表皮水疱症(DEB。Dystrophic Epidermolysis Bullosa)は、皮膚が蝶の羽のように脆くなってしまう重度の表皮水疱症の一種で、英語圏では『Butterfly Skin Disease(蝶の羽の皮膚)』とも呼ばれる。

2016年に当時51歳だった彼女は、数カ月をかけてそのアイデアを練り上げ、特許取得の手続きを進めた。そして、共に10年以上バイオテック業界で働いてきた夫のクリシュ・クリシュナンと共にKrystal Biotech(クリスタル・バイオテック)を創業した。

自己資金で始めた稀少疾患への挑戦

「栄養障害型表皮水疱症」のような、米国における患者数が数千人規模にすぎない希少な疾患の治療に特化したバイオ企業を立ち上げる事例は珍しい。さらに、ベンチャーキャピタル(VC)に頼らず、主にそれまでの業界の仕事で築いた500万ドル(約7億3500万円。1ドル=147円換算)の自己資金で会社を立ち上げる試みも異例のものだった。しかし、彼らの最大の賭けは、その科学的アプローチにあった。ジェル状の遺伝子治療薬を用いるまったく新しい治療法は、成功すれば大きな成果が見込める一方で、失敗のリスクも高かった。

「それは規制当局も初めて目にする治療法で、私は彼らと連携して仕事を進める必要があった。私たちの取り組みは、前例のないものだったからだ」とクリシュナンはフォーブスに語った。

ナスダック上場と成長

そしてクリシュナン夫妻は、ピッツバーグを拠点とする会社を、設立してからわずか18カ月後にナスダックに上場させた。現在、時価総額が44億ドル(約6468億円)に達したKrystal Biotechは、米食品医薬品局(FDA)から承認を受けたDEB向け遺伝子治療薬「Vyjuvek(バイジュベック)」を販売するほか、嚢胞性線維症や肺がんなどを対象とする他の遺伝子治療薬を、臨床試験のさまざまな段階で進めている。

同社の2024年の売上高は2億9100万ドル(約427億7700万円)で、2023年の5100万ドル(約74億9700万円)から5倍以上に拡大した。純利益も同期間に1100万ドル(約16億1700万円)から8900万ドル(約130億8300万円)へと8倍に増加した。

夫妻は合計で12%のKrystal Biotechの株式を保有しており、フォーブスは同社の研究開発部門のプレジデントを務めるスーマの保有資産を約3億ドル(約441億円)と試算している。同社の株価は値動きが激しく、新規株式公開(IPO)以降に約1300%以上も上昇したものの、ここ1年では約25%下落している。

「こういう仕事をやるためには、勇敢かつ大胆でなければならない」とクリシュナンは言う。「私はリスクを取ることを恐れないし、安定した仕事に就きたいと思ったこともない」。

50歳以上で影響力を発揮する女性

彼女は、今年のフォーブスの年次リスト「50オーバー50」に選ばれた200人の起業家やリーダーの中の1人だ。本年度のこのリストに選ばれた女性たちの中には、更年期障害の問題に対処するスタートアップを立ち上げた女優のハル・ベリーや、社会的使命を重視する投資家のフリーダ・ケイパー・クライン、元夫のアーノルド・シュワルツェネッガーのカリフォルニア州知事の任期の末期に、女性の脳の健康とアルツハイマー病予防に特化した団体Women’s Alzheimer’s Movementを立ち上げたマリア・シュライバーらが含まれている。これらの60代から80代の女性たちは、さまざまな分野で傑出した業績を収めている。

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編集=上田裕資

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