市場と未来への展望
同社は1バイアル(薬剤を密封した小瓶1本=1回分の投与量)あたりのリスト価格(定価)を2万4250ドル(約356万4750円)に設定した。これは、平均的な患者が年間26バイアルを使用する場合、割引前で年間63万1000ドル(約9276万円)の負担となることを意味する。ただし、傷が治癒するにつれ必要量は減っていく傾向がある。
遺伝子治療はもともと高額で、多くは100万ドル(約1億4700万円)以上かかる。しかしクリシュによると、希少疾患の場合は保険者(保険会社など支払側)は価格に比較的寛容だという。なぜなら、各保険会社が扱うこの種の病気の患者は、年間でもせいぜい数人しかおらず、総支払額が限られるためだ。実際、この費用の大半は患者本人ではなく保険会社が負担する。「ブルークロス・ブルーシールド(米国の民間医療保険の連合体)に治療の価値を示せば、理解してもらえる」と彼は言う。
Krystal Biotech創業初期に個人的に出資した、ライフサイエンス分野の投資家でアルタ・パートナーズのマネージングパートナーを務めるダン・ジャニーは、子ども同士が同じ学校に通っていた縁でクリシュナン夫妻と知り合った。彼は、2人が設立したこの会社について「資本の使い方に関しては、私が関わった中でおそらく最も効率的な会社だ」と評し、「黒字化に至るまで本当に素晴らしい仕事をしてきた」と語る。
Krystal Biotechが開発した「栄養障害型表皮水疱症」向けの治療薬はその後、この病気の治療の唯一の選択肢ではなくなった。4月に時価総額が3億4800万ドル(約511億5600万円)の上場企業であるバイオテック企業Abeona Therapeuticsは、独自の遺伝子治療薬「ゼヴァスキン(Zevaskyn)」でFDA承認を取得した。この治療薬は、患者自身の皮膚細胞を遺伝子改変したシート状の皮膚移植片を用いるもので、リスト価格310万ドル(約4億5570万円)で今夏から販売が開始された。
肺疾患やがん、眼疾患などの他の病気にも目を向ける
米国でバイジュベックの承認を取得し、さらに欧州と日本でも承認を得たクリシュナンは現在、肺疾患やがん、眼疾患などの他の病気にも目を向けている。その中で最も開発が進んでいるのは、第3相臨床試験段階にある、同社がすでに治療対象としている皮膚病に伴う眼の合併症向けの治療薬だ。
また、初期の臨床試験段階にあるものとしては、嚢胞性線維症や肺腫瘍向けの治療薬が挙げられる。特に肺がん治療は、喫煙歴のない若い女性の間で肺がんが増えていることを背景に、クリシュナンが注力している分野だ。Krystal Biotechの治療薬は、いずれのケースでも疾患を治療するための正常な遺伝子コピーを患部に送り込むが、その投与方法は異なっており、肺がん治療ではネブライザー(吸入器)を使用する。
Krystal Biotechの大きな課題
ただし、Krystal Biotechの今後の大きな課題は、同社がこれまでと同様の遺伝子組み換えヘルペスウイルスを用いた治療で、1つの希少疾患にとどまらず、複数の疾患向けの薬を展開していけるかどうかだ。クリシュナンは、バイジュベックの販売から得た資金を用いて、他の治療薬の臨床開発を進めようとしている。「私たちは、これまでに得た資金で、残りの製品を開発していく計画だ。この分野では常に、最初の製品の開発が最も難しい」と彼女は語った。


